何を作りたいのかを先に決める

先週、3Dモデル Deep Diveでメッシュ・マテリアル・リギングの仕組みを一通り調べた。 仕組みは分かったが、「では自分のキャラクターを1体作るなら、何から手を付けるのか」には答えていなかった。本記事はその続きとして、アニメ調の人型3Dモデルを自作する進め方を調べてまとめたものだ。

最初に決めるべきは、作ったモデルを何に使うかだ。用途によって、必要な品質も、書き出す形式も変わる。

  • VTuberやビデオ通話のアバター:表情と口の動き(リップシンク)、まばたきが必須。VRMで書き出せば多くのソフトでそのまま使える
  • Webサイトやアプリに置くキャラクター:ファイルサイズとポリゴン数を抑える必要がある。VRMかglbをThree.jsで表示する
  • ゲームのキャラクター:UnityやUnreal Engineに持ち込み、エンジン側のシェーダーとアニメーションで動かす
  • 静止画やイラストの下絵:リギングは最低限でよく、見た目の作り込みに時間を使える

本記事では、汎用性がいちばん高い「VRMアバターとして動かす」をゴールに置いて話を進める。

アニメ調3Dは何が難しいのか

写実的な3Dモデルは、現実の形と光を正しく再現するほどよく見える。アニメ調はそうならない。 アニメの絵は、角度ごとに描き手が「こう見えると気持ちいい」形と影を選んで描いている。正面の顔と横顔で鼻の形が違うのも、影が頬に1本きれいに落ちるのも、物理的に正しいからではない。 3Dモデルは1つの形を全角度から映すので、絵の嘘をそのままは再現できない。この差を埋める工夫が、アニメ調3Dの技術の中心になる。

よく引き合いに出されるのが、アークシステムワークスの格闘ゲーム『GUILTY GEAR Xrd』だ。2015年のGDC講演で、開発チームは2Dアニメに見える3Dを作るための工夫を公開した。

  • 頂点の法線を手で編集し、顔や体に落ちる影の形を絵として整える
  • 光の計算は使わず、影が出るかどうかの閾値を頂点カラーやテクスチャで塗って管理する
  • 輪郭線はモデルを裏返して少し膨らませる「背面法」で描き、内側の線はテクスチャに直接描く
  • アニメーションはわざとコマ数を落とし、補間で滑らかに動かさない
  • カメラの角度ごとにモデルの形を変形させ、決めポーズで絵として破綻しないようにする

個人で作る場合もやることの種類は同じだ。違うのは、そのうちどこまでを自分で作り、どこを既存のツールやシェーダーに任せるかだ。

3つのルート

調べた範囲では、個人がアニメ調のキャラクターを作る進め方は大きく3つに分かれる。

A. VRoid Studioから作るB. Blenderでゼロから作るC. AI生成をたたき台にする
最初の1体までの時間数時間〜1日数週間〜数か月数分〜数時間(手直し別)
見た目の自由度VRoidの体型・髪の仕組みの範囲内制限なし生成結果しだい。細部の制御は難しい
アニメ調の品質すぐに一定水準に届く腕しだい。最初は届かないメッシュと法線が荒く、そのままでは陰がきれいに出にくい
リグと表情自動で付く(VRM準拠)自分で組む(Rigify等を利用)自動リグはあるが、表情まで揃うことは少ない
学べることキャラの構成要素の全体像モデリングからリグまで全部生成AIの癖と、手直しの技術
費用無料無料(Blender)サービスにより有料。商用利用は有料プランが条件のことが多い

結論から書くと、初めて作るならAから入り、気に入らない部分をBlenderで1つずつ作り直していく進め方を勧める。 いきなりBで顔のトポロジーから作り始めると、陰の出方を確かめられる段階に着く前に力尽きやすい。 Aで「完成したキャラクターがどんな部品でできているか」を先に体験しておくと、Bの各工程で何を目指せばよいかが分かる。

A. VRoid Studioから作る

VRoid Studioは、pixivが無料で配布しているアニメ調キャラクター作成ソフトだ。 スライダーで顔と体型を調整し、髪はペンで毛束を描くように作り、衣装はテクスチャに直接描ける。完成したらVRM形式で書き出せる。 2026年6月公開のv2.14.0時点で、Windows・macOS・iPadに対応している。

利点は、法線・シェーダー・リグ・表情・揺れものといった、Bで苦労する工程が最初から済んでいることだ。 弱点は、VRoidの素体から大きく離れた体型や、複雑な衣装の構造を作りにくいこと。そこで、VRoidで書き出したVRMをBlenderに読み込み、衣装や髪をBlenderで足す、という使い方が広く行われている。

B. Blenderでゼロから作る

無料の統合3DCGソフトBlenderで、形・見た目・動きをすべて自分で作るルートだ。2026年10月時点の長期サポート版はBlender 5.2 LTS。 VRMの読み書きには、Blender Extensionsで配布されている VRM Add-on for Blender を入れる。VRMの人型ボーン割り当て、表情、揺れもの、MToonシェーダーの設定をBlender上で行える。 工程は多いが、次の章で順に見ていく。

C. AI生成をたたき台にする

Tripo、Hunyuan3D、Meshyといった3D生成AIに、キャラクターの立ち絵や三面図を渡すと、数分でテクスチャ付きのメッシュが返ってくる。Tripoのように人型を検出して骨とウェイトまで付けるサービスもある。 ただし、生成されたメッシュは三角形が不規則に並び、顔の法線も荒い。アニメ調で一番大事な「陰の出方」が整わないため、そのまま使うと「色を塗った粘土」のように見えやすい。 表情用のブレンドシェイプが揃わないことも多い。

現時点では、Cは完成品を作る手段というより、Bの最初の形出しを早める手段と考えるのが現実的だ。生成結果を下敷きにして、Blenderでトポロジーを作り直す(リトポロジー)ところから始めることになる。 生成AIの仕組みはDeep Dive第10章にまとめた。

Blenderで作る場合の工程

Bルートの工程を、写実的なモデルと共通の部分と、アニメ調に特有の部分に分けて図にした。色の付いた工程が、アニメ調ならではの作業だ。

flowchart TD
    A["デザイン<br/>三面図・表情集"] --> B["モデリング<br/>顔・体・髪・衣装"]
    B --> C["UV展開"]
    C --> D["テクスチャ<br/>手描きの色と陰色"]
    B --> E["法線編集<br/>顔の影を整える"]
    D --> F["トゥーンシェーダー<br/>陰を段で塗り分け"]
    E --> F
    F --> G["アウトライン<br/>背面法+内側の線"]
    B --> H["リギング<br/>骨とウェイト"]
    H --> I["表情<br/>ブレンドシェイプ"]
    H --> J["揺れもの<br/>髪・スカート"]
    G --> K["VRM書き出し"]
    I --> K
    J --> K
    classDef anime fill:#8b5cf6,stroke:#c4b5fd,color:#fff
    class E,F,G,I,J anime
アニメ調キャラクターの制作工程。紫色の工程がアニメ調に特有、または重要度が特に高い

デザイン:三面図を用意する

モデリングに入る前に、正面・横・後ろの三面図を用意する。Blenderの背景に画像を置き、それをなぞるように形を作るためだ。 アニメ調では、正面と横で絵の嘘がある(横顔の鼻や顎が正面図と合わない)ことが多い。この段階で、どちらの角度を優先するかを決めておくと後で迷わない。 怒り・笑い・驚きなどの表情集も描いておくと、表情を作る工程の目標になる。

モデリング:顔は少ないポリゴンで、流れを整える

アニメ調の顔は、写実的な顔よりも少ないポリゴンで作るのが一般的だ。凹凸を細かく作り込むと、そのぶん影が細かく割れてしまい、絵としての影にならない。 目・口のまわりは、表情を付けたときにきれいに変形するよう、輪を描くように面を並べる(エッジループ)。 体はゲーム向けなら数万ポリゴン、VRChatなど多くのアバターが集まる場所では軽さが求められるので、用途の上限を先に確認しておく。

髪は、毛束ごとに板や筒のような面を作って重ねる方法が主流だ。VRoid Studioの髪も同じ考え方で作られている。 毛束を曲線(カーブ)で作り、断面の形を付けてメッシュに変換すると、流れを後から調整しやすい。

法線編集:影の形は法線で決まる

アニメ調で最も効く工程が、法線の編集だ。トゥーンシェーダーは、面の向き(法線)と光の向きの角度で「明るい側か、陰の側か」を決める。 顔をそのままモデリングすると、鼻や頬の小さな凹凸のせいで、光を少し動かすだけで影がまだらに出る。アニメの顔では、影は頬に大きく1つ、鼻の下に小さく1つ、くらいが理想だ。

よく使われるのは、顔の形とは別に、球や楕円体に近い滑らかなメッシュを用意し、その法線を顔に写す方法だ。Blenderでは「データ転送」モディファイアで行う。 顔の形は細かいまま、陰の出方だけが球のように滑らかになる。

import bpy

face = bpy.data.objects["Face"]
# 法線の転写元。顔を覆う楕円体に近い滑らかなメッシュを別に用意しておく
proxy = bpy.data.objects["FaceNormalProxy"]

mod = face.modifiers.new(name="NormalTransfer", type='DATA_TRANSFER')
mod.object = proxy
mod.use_loop_data = True
mod.data_types_loops = {'CUSTOM_NORMAL'}
mod.loop_mapping = 'POLYINTERP_NEAREST'
# 目や口の内側まで丸くならないよう、転写する範囲を頂点グループで絞る
mod.vertex_group = "FaceNormalMask"

Blender 4.1で「自動スムーズ」の設定がなくなり、カスタム法線は追加の設定なしで使えるようになった。 法線編集を楽にするアドオンも複数出ている。ただし、法線を編集したモデルは書き出し時に法線を含める設定を忘れると元に戻るので、VRMやglbで書き出した後に必ず確認する。

トゥーンシェーダー:陰を2〜3段に塗り分ける

写実的なシェーダーは、光の当たり方を滑らかなグラデーションで表す。トゥーンシェーダーは、それを「明るい色」と「陰の色」の2〜3段にはっきり塗り分ける。 陰の色は単純に暗くするのではなく、肌なら赤み、服なら青みや紫みに寄せた色を、テクスチャとして別に描いておくのがアニメらしく見せるコツだ。

  • Blender:EEVEEで「シェーダーからRGB」ノードの出力を「カラーランプ」(補間を一定)に通すと、陰の段を作れる。Cyclesでは使えない
  • VRM:標準のトゥーンシェーダー MToon が仕様に含まれる。基本色・陰色・陰の境界の位置とぼかし・リムライト・アウトラインを指定でき、VRM対応ソフトならどこでも同じ見た目になる
  • Unity:VRChat界隈では lilToon が広く使われる。MToonより機能が多いが、VRMの外に持ち出すと設定は引き継がれない

アウトライン:背面法と内側の線

輪郭線は、背面法(インバーテッドハル)で描くのが定番だ。モデルを法線方向に少し膨らませた複製を作り、その裏面だけを黒く描く。 手前の本体が重なるので、はみ出した縁だけが線として見える。Blenderでは「ソリッド化」モディファイア(法線を反転、マテリアルのオフセット)で作れ、MToonにも同じ機能がある。

背面法の弱点は、法線が急に折れる角で線が切れることだ。アウトライン専用に平均化した法線を頂点カラーなどに持たせ、線を描くときだけそちらを使う、という対策がよく使われる。 鼻筋や服のしわなど、輪郭ではない内側の線は、背面法では出ない。テクスチャに直接描くか、Blenderならレンダリング時に線を検出するLine Art・Freestyleを併用する。

リギング・表情・揺れもの

骨を入れてメッシュと結び付ける工程は、写実的なモデルと同じだ。Blender標準のRigifyで人型の骨組みを生成し、自動ウェイトで結び付けてから、肩や股関節の破綻を手で直す。 仕組みはDeep Dive第5章で扱った。アニメ調で追加で必要になるのは、表情と揺れものだ。

要素中身VRM 1.0での扱い
感情の表情喜・怒・哀・楽・驚happy / angry / sad / relaxed / surprised のプリセット
口の形あ・い・う・え・おaa / ih / ou / ee / oh。音声に合わせて口を動かす
まばたき両目・左目・右目blink / blinkLeft / blinkRight
視線目の向きlookAt。目の骨を回すか、ブレンドシェイプで動かすかを選ぶ
揺れもの髪・スカート・アクセサリーSpringBone拡張。骨の揺れ方と当たり判定(コライダー)を定義

表情はブレンドシェイプ(シェイプキー)で作る。笑顔なら、目を閉じる形・口角を上げる形・眉を下げる形を組み合わせる。 アニメ調では、目を線や記号(><など)に差し替える表情もよく使う。これは目の部分のテクスチャを切り替えるか、別メッシュを出し入れして表現する。 揺れものは、髪の毛束ごとに骨を数本ずつ入れ、SpringBoneで揺らす。頭や肩にコライダーを置かないと、髪が顔にめり込む。

VRMで書き出し、Webで動かす

VRMは、glTF 2.0をベースにした人型アバター用の形式だ。glTFの拡張として、人型ボーンの対応表、表情、視線、MToon、SpringBone、それに利用条件(商用利用・改変・再配布の可否など)を持つ。 1ファイルにキャラクターの見た目と使い方の約束がまとまっているので、VTuber向けソフト、ビデオ通話のアバター、Webアプリのどこでも同じように読み込める。

Webに置くなら、pixivが公開している @pixiv/three-vrm を使う。Three.jsのGLTFLoaderにプラグインとして登録するだけで、表情やSpringBoneも動く。

import * as THREE from 'three';
import { GLTFLoader } from 'three/addons/loaders/GLTFLoader.js';
import { VRMLoaderPlugin, VRMUtils } from '@pixiv/three-vrm';

const scene = new THREE.Scene();
const loader = new GLTFLoader();
loader.register((parser) => new VRMLoaderPlugin(parser));

const gltf = await loader.loadAsync('/models/my-character.vrm');
const vrm = gltf.userData.vrm;
VRMUtils.rotateVRM0(vrm); // VRM 0.x のモデルは向きが逆なのでそろえる
scene.add(vrm.scene);

// 表情を付ける(0〜1で強さを指定)
vrm.expressionManager.setValue('happy', 1.0);

const clock = new THREE.Clock();
function tick() {
  // 表情・視線・SpringBoneの更新。毎フレーム呼ばないと髪が揺れない
  vrm.update(clock.getDelta());
  requestAnimationFrame(tick);
}
tick();

おすすめの進め方

ここまでの調査をもとに、エンジニアが趣味で1体目を作る場合の進め方を考えた。各段階で動くものが手元に残るよう、完成→改造の順にしている。

  1. VRoid Studioで1体作り、VRM 1.0で書き出す。three-vrmで自分のサイトに表示し、表情を切り替えてみる
  2. VRMをBlenderに読み込み、どんな部品でできているかを見る。メッシュの分け方、骨の数、シェイプキーの一覧、MToonの設定値を確認する
  3. 衣装か髪型を1つ、Blenderで作って差し替える。モデリング・UV・テクスチャ・ウェイトを小さな範囲で一通り体験できる
  4. 顔以外を自作に置き換える。体と衣装をゼロから作り、VRoidの頭を載せる
  5. 最後に顔を自作する。法線編集と表情づくりが最も難しいので最後に回す。AI生成の形を下敷きにしてもよい

スキルのない人がClaudeを使う場合

Claudeは3Dモデルを直接生成するAIではないが、BlenderのPython APIでスクリプトを書き、Blenderを動かすことはできる。 スキルのない人がClaudeを使うなら、手先の作業(造形)はほかのツールに任せ、知識が要る作業をClaudeに任せる分担になる。 本記事で挙げた工程のうち、法線の転写、トゥーンシェーダー、アウトライン、骨の割り当て、VRMの書き出し設定は、知っていれば数行で書ける作業だ。スキルのない人がつまずきやすいのもここなので、Claudeに任せる効果が大きい。

進め方Claudeの役割向いている人
VRoid Studio+Claudeスライダーの調整方法、書き出し設定、Webに載せるコードを答える相談役アバターとして早く使いたい人
画像生成AI→3D生成AI→Claude+Blender生成されたメッシュの軽量化、トゥーン化、骨入れ、VRM化をスクリプトで行う自分のキャラの絵があり、3D化したい人
Claudeにコードで組み立ててもらう球や筒の組み合わせで造形し、表情・骨・揺れものまで作るデフォルメやマスコット系で十分な人

3つ目の方法は実際に試し、3Dのスキルなしで、Claudeにアニメ調キャラを作らせてみたにまとめた。 2.5頭身のキャラクターなら、表情と揺れもの付きのVRMをスクリプトだけで作れた。ただし等身の高いキャラの顔の造形や、デザインの好みの判断は、人の目が要る。

まとめ

  • アニメ調3Dの難しさは、1つの形を全角度から映しながら「絵として正しい」影と線を出すことにある。法線編集・トゥーンシェーダー・アウトラインがその中心の技術
  • 進め方はVRoid Studio・Blender・AI生成の3ルート。最初はVRoidで完成品を作り、Blenderで部品を1つずつ自作に置き換えるのが挫折しにくい
  • AI生成は形出しを速くするが、法線と表情は手で作り直す前提で使う
  • 書き出しはVRM 1.0にそろえると、表情・揺れもの・MToon・利用条件まで1ファイルに入り、three-vrmでWebにも載せられる

理解度チェック

問題 0 / 50%
Q1

アニメ調の顔で、光の向きを少し変えただけで頬や鼻のまわりに影がまだらに出てしまう。最も効果的な対策はどれか。

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