このページは「講座」ではなく「プロンプト集」
OpenAI Academy のマネージャー向け ChatGPTは、名前から想像する動画講座やカリキュラムではありません。2026年4月10日に公開された1枚のリファレンスページで、 読み上げ音声にして4分20秒。中身は5つの短い解説セクションと、18本の日本語プロンプトです。 各プロンプトの「新しいウィンドウで開く」を押すと、本文が埋め込まれた状態で chatgpt.com が開きます。
冒頭の1段落が、このページの守備範囲をはっきり言っています。
人材管理とは、1対1の面談、フィードバック、採用決定、業績評価サイクル、チームの状況報告、そして難しい話し合いなど、一連の重要な局面の連続です。 作業の多くは準備とフォローアップに費やされます。
つまり対象は「会話の前(準備)」と「会話の後(記録と伝達)」です。 会話そのものをAIにやらせる話ではありません。この線引きは、後で見るプロンプトの書き方にも一貫して表れています。
この記事では、ページをそのまま紹介するのではなく、①ページの構造、②18本のプロンプトに共通する型、③マネージャーの年間サイクルへの割り当て方、④ChatGPTの機能との組み合わせ、⑤使う前に決めておくこと、の順で「どう使うか」を組み立てます。 想定読者は、エンジニアリングマネージャーを含む、部下を持つ人全般です。
ページの構造 — 抽象から具体へ4段で降りる
ページは「なぜ使うか」から始まり、「どの業務に」「どの機能で」「具体的に何と打つか」へ、抽象度を1段ずつ下げていきます。 最後に「どう測るか」で締める構成です。
flowchart TD
A["1. 使う理由<br/>準備を整える / 文章を明確にする / 基本を年間で回す"] --> B["2. ユースケース 10分野<br/>戦略と計画 / パフォーマンス / 採用 / コミュニケーション<br/>意思決定 / 会議 / 変更管理 / 報告 / 文化 / リスク"]
B --> C["3. 主な機能 5つ<br/>Projects / Skills / データ分析 / deep research / 画像生成"]
C --> D["4. プロンプト 18本<br/>1on1 / 面接キット / 30-60-90日 / 評価面談 / 難しい会話 ..."]
D --> E["5. 効果の測定<br/>時間短縮 + 一貫性 → チーム成果 → 高付加価値業務の割合"]
実務で使うときに大事なのは、2層目(10分野)と4層目(18本)が1対1に対応していないことです。 10分野の表には「戦略計画、OKR、取締役会向け要約、ステークホルダーマップ」などが載っていますが、 18本のプロンプトはそのうち「人」に直接触れる業務にほぼ集中しています。 1on1、フィードバック、評価、採用、オンボーディング、称賛、難しい会話、チーム規範、エンゲージメント調査です。 戦略やKPI報告のプロンプトは1本もありません。
これは欠落ではなく選択だと読めます。戦略やレポートは他のAcademyページ(文章作成、データ分析)でも扱えますが、部下との会話の前後はマネージャー固有の仕事で、しかも最も「その場しのぎ」になりやすい領域です。 ページはそこにプロンプトを集中投下しています。
18本のプロンプトに共通する4つの要素
18本を並べて読むと、全て同じ型で書かれていることが分かります。代表として「フィードバックの下書き」を引きます。
[人物]に[状況]についてフィードバックを書くのを手伝ってください。以下は事実と例です:[貼り付け]。 (1)影響を述べ、(2)具体的な例に言及し、(3)今後の期待を示し、(4)話し合いを促す言葉で締めくくるメッセージを作成してください。 中立的なトーンを保ち、誇張表現は避けてください。
この1本を分解すると、4つの部品に分かれます。
| 要素 | この例での中身 | 18本での現れ方 |
|---|---|---|
| ① 文脈の差し込み口 | [人物] [状況] [貼り付け] | 全18本に角括弧のプレースホルダーがある。「メモを貼り付けます」「次の事実を基に」など、自分の一次情報を入れる前提で書かれている |
| ② 出力の構成指定 | (1)影響 →(2)具体例 →(3)期待 →(4)対話への誘い | 「冒頭、要点、確認すべき質問、反論への返答、目指す結果」(難しい会話)、「合意内容、変更点、担当者、次回確認時期」(フォローアップ)など、章立てを先に固定する |
| ③ 数量の指定 | (この例にはなし) | 「5つの議題、3つのコーチングの質問」「3〜4文で」「30/60/90日」「4週間」「測定可能な3つの目標」。長さではなく個数と期間で縛る |
| ④ 品質の制約 | 中立的なトーン / 誇張表現は避ける | 「誇張を避け」「非難めいた口調にならないように」「提示された例に厳密に従って」「推測するのではなく不足があれば私に確認して」「根拠が不足している点を指摘して」。捏造と過剰演出を止める指示が繰り返される |
特に④は、人事文書を生成AIで書くときの最大のリスクに真正面から当てています。 評価面談の下書きプロンプトは「私が提供した具体例を用いて」「さらに根拠を追加すべき箇所を教えて」と書き、 コーチング計画のプロンプトは「推測するのではなく、不足しているコンテキストがあれば私に確認してください」と書いています。 これは「事実は人間が持ち込み、AIは構成と言葉を整える」という役割分担を、プロンプトの文面で強制しているということです。
マネージャーの年間サイクルに18本を割り当てる
ページの「使う理由」セクションは、3つ目の理由として「マネージャーの基本を年間を通して繰り返し実践できるようにする」を挙げています。 1on1、目標設定、オンボーディング、評価サイクルは毎年同じ順番で来る。だからテンプレート化が効く、という主張です。
この主張に従うなら、18本を「いつ使うか」で並べ直すのが最初の一歩です。ページの掲載順は業務の頻度と無関係なので、自分のカレンダーに合わせて再配置します。
| 頻度 | マネージャーの業務 | 対応するプロンプト |
|---|---|---|
| 毎週 | 1on1の準備と記録、チーム会議、称賛 | 散在するメモを基にした1on1アジェンダ / 意思決定につながる会議 / 重要な話し合いの後のフォローアップ / 誰かを称賛する |
| 毎月 | 負荷の点検、チームへの周知、規範の見直し | シンプルな表を使用したワークロードの確認 / チームの最新情報 / チーム規範の草案 |
| 四半期・半期 | 評価、キャリブレーション、育成計画、サーベイ対応 | メモを基にした評価面談用の下書き / 校正準備(=キャリブレーション準備) / 育成計画 / スキルギャップのコーチング計画 / エンゲージメント調査のテーマと施策 |
| 随時(イベント駆動) | 採用、入社、役割変更、問題行動への対応 | 面接用のキット / パネル議事録からの要約(=面接デブリーフ) / 30-60-90日のオンボーディング計画 / 役割に期待されることを明確にする / フィードバックの下書き / 難しいトピックに関する会話の計画 |
こう並べると、毎週使うのは4本だけだと分かります。全18本を覚える必要はなく、まずこの4本を1on1の前後に差し込む。 それが定着してから、四半期の評価シーズンに評価系の5本を持ち出す。この順序が現実的です。
具体例: 1on1の「前」と「後」を2本でつなぐ
ページの中で最も使用頻度が高くなるのは、この2本の組み合わせです。
前: 最近の[人物]との1対1ミーティングのメモを貼り付けます:[貼り付け]。次回の30分間の1対1ミーティングに向けて、5つの議題、3つのコーチングの質問、そして最後に確認する決定事項やフォローアップの短いリストを含む、要点を絞ったアジェンダを作成してください。実践的かつ具体的にしてください。
後: [トピック]についての会話の後に[人物]に送る、フォローアップメッセージの下書きを作成してください。合意した内容、変更点、各対応の担当者、次回の確認時期を要約してください。短く明確にし、非難めいた口調にならないようにしてください。
ポイントは、「前」の入力が「後」の出力になっていることです。 今週のフォローアップメッセージ(合意内容・担当者・次回確認)が、来週のアジェンダ生成に貼り付けるメモになる。 この循環を回すと、1on1の記録が自然に蓄積されます。
flowchart LR
M["先週のメモ<br/>+ 先週のフォローアップ文"] --> P1["プロンプト①<br/>アジェンダ生成"]
P1 --> A["議題5 / コーチング質問3 / 確認事項"]
A --> T["1on1 本番<br/>(人間だけ)"]
T --> N["会話中の走り書き"]
N --> P2["プロンプト②<br/>フォローアップ下書き"]
P2 --> F["合意 / 変更 / 担当 / 次回確認"]
F --> M
エンジニアリングマネージャー向けに、①のアジェンダプロンプトを少し改造した例を置きます。 変えたのは、出力の構成に「技術的な障害の確認」を足したことと、制約に「私の解釈を混ぜない」を足したことだけです。
[名前]との直近3回の1on1メモを貼り付けます:
[貼り付け]
次回30分の1on1に向けて、以下の構成でアジェンダを作ってください。
1. 前回からの持ち越し事項(メモにあるものだけ。私の解釈は加えない)
2. 議題 5つ(技術的なブロッカーの確認を必ず1つ含める)
3. コーチングの質問 3つ(キャリア・スキル・チーム貢献から各1つ)
4. 最後に確認する決定事項・フォローアップの短いリスト
メモにない事実を補わないでください。
情報が不足していて議題が立てられない項目は「要確認」と明示してください。最後の2行は、ページの型で言う④の制約です。このひと手間で、「前回そんな話はしていない」という食い違いをかなり防げます。
ChatGPTの5機能と組み合わせる
ページの「主な機能」セクションは、5つの機能それぞれに「マネージャーによる使い方」を3つずつ載せています。 ここで重要なのは、プロンプト単体で使うのと、機能に載せて使うのとでは定着度が違うということです。
| 機能 | ページが挙げる使い方 | 組み込みの実践例 |
|---|---|---|
| Projects | オンボーディング計画の作成 / 優先事項・所有者・期限の追跡 / 評価・昇進サイクルの準備 | 部下1人=1プロジェクトを作り、1on1メモとフォローアップ文を溜める。評価シーズンに「このプロジェクト内の記録から評価面談の下書きを」と頼めば、半年分の事実が根拠になる |
| Skills | 一貫した1on1アジェンダの作成 / 生メモからのフィードバック要約 / 繰り返し使えるコーチングプラン生成 | 上で改造した1on1アジェンダプロンプトをSkillとして保存し、毎週メモを貼るだけにする。構成と制約が固定されるので、週によって出力の質がぶれない |
| データ分析 | エンゲージメント調査の分析 / 採用ファネル・離職傾向の確認 / 能力・ワークロードの要約 | ワークロード確認プロンプトに、スプレッドシートをアップロードして渡す。表を手で貼るより、担当者別・プロジェクト別の集計をやらせやすい |
| deep research | 報酬水準や組織設計の調査 / 外部文脈を使った戦略準備 / リーダーシップ開発手法の比較 | 「エンジニアリングマネージャー1人あたりの適正な直属人数」など社外の相場が必要な問いに使う。18本のプロンプトはどれも社内情報前提なので、外部情報は別経路で取る |
| 画像生成 | オフサイト・キックオフ向けビジュアル / チーム規範やワークフローの図 / 表彰グラフィック | チーム規範の草案プロンプトの出力を、そのまま1枚の図にする。文章より壁に貼りやすい |
使う前に決めておく3つのこと
18本のプロンプトのうち10本が[人物]や[候補者]を名指しして、その人に関する情報を貼る前提です。評価、フィードバック、面接メモ、育成計画。担当者別の工数表を貼るワークロード確認も含めれば11本。 どれも社内で最もセンシティブな部類の情報です。ページ自身も冒頭でこう書いています。
これは、あなた自身の判断や、人事・法務ポリシーに従う責任を代替するものではありませんが、最初の一歩を踏み出しやすくし、より迅速に作業を進める手助けをします。
1. どのプランで、何を貼ってよいかを先に確認する
個人の無料・Plusアカウントと、会社契約のTeam・Enterprise・Eduでは、入力データの学習利用やアクセス制御の扱いが異なります。 評価メモや面接記録を貼るなら、会社が契約しているワークスペースで、情シスや人事が定めたポリシーの範囲内で使うのが前提です。 個人アカウントで使う場合は、少なくとも氏名をイニシャルやロール名に置き換える匿名化ルールを自分で決めておく必要があります。
2. 日本語訳の一部は英語の原義に読み替える
日本語版は機械翻訳ベースと思われ、いくつか意味が取りにくい訳語があります。実務で使う前に読み替えておくと迷いません。
| 日本語版の表記 | 読み替え | 補足 |
|---|---|---|
| 校正準備(エビデンスに基づく) | キャリブレーション(評価のすり合わせ)準備 | 「同僚から聞かれそうな質問を3つ」とあるのは、マネージャー同士の評価すり合わせ会議を想定しているため |
| パネルディスカッションの議事録からの要約 | 面接パネルのデブリーフ要約 | 本文は「各選考ラウンドにわたる面接官メモ」「採用に関する推奨事項」なので、採用面接の合議のこと |
| スキル(主な機能) | ChatGPTの Skills 機能 | 人のスキルではなく、繰り返し作業を保存するChatGPTの機能名 |
3. 「下書き」を「完成」にしない運用ルールを持つ
18本の多くは「下書きを作成してください」「草案を作成するのを手伝って」という語尾です。 出力がそのまま送れる品質に見えても、フィードバックと評価文だけは必ず自分の言葉で書き直してから送る、と決めておくのが安全です。 受け取る側は文体の変化に敏感ですし、面談で「なぜそう書いたのか」を聞かれたときに自分の言葉で答えられる必要があります。 ページが「中立的なトーンで最初の下書きを作成できるため、ユーザーは正確さと公平性の確認に時間を使えます」と書いているのは、そういう分業のことです。
効果をどう測るか
ページの最終セクション「効果の測定」は、指標を3層に分けています。
| 層 | ページが挙げる指標 | 自分で取るなら |
|---|---|---|
| 効率 | 1on1アジェンダ作成、更新の要約、フィードバック作成、計画資料の取りまとめでの時間短縮。コミュニケーションの一貫性 | 1on1の準備時間を1か月だけ計測する。導入前後で「準備にかけた分数」を1on1ごとにメモするだけでよい |
| チーム成果 | より定期的なコーチング、明確な目標、準備の整ったレビュー、迅速なオンボーディング、確実な実行 | 1on1のフォローアップ送信率(会話後24時間以内に送れた割合)。導入前はたぶん半分以下 |
| 時間配分 | マネージャーが事務作業に費やす時間が減り、コーチング・戦略・採用・育成に充てられているか | カレンダーの週次レビューで「準備・記録」と「対話・判断」の時間比を見る。ページはこれを「リーダーにとって最も重要な指標」と呼んでいる |
1層目の時間短縮は測りやすいが、それだけを追うと「速く書けるようになっただけ」で終わります。 ページが3層目を最重要と置いているのは、浮いた時間を対話と判断に回せているかまでを成果と見ているからです。
持ち帰り
| やること | 具体的には |
|---|---|
| 今週 | 1on1アジェンダとフォローアップの2本を、次の1on1で1回ずつ使う。制約行(「メモにない事実を補わない」)を足す |
| 今月 | 部下1人につき1つProjectsを作り、その中で2本を回す。1on1アジェンダをSkillsに保存する |
| 次の評価シーズン | Projectsに溜まった記録を根拠に、評価面談の下書きとキャリブレーション準備のプロンプトを使う。出力は自分の言葉で書き直す |
| ずっと | 何を貼ってよいか(プラン・匿名化・社内ポリシー)を最初に決め、フィードバックと評価文は必ず自分で書き直してから送る |
このページの価値は、18本のプロンプトそのものより、「準備とフォローアップだけをAIに任せ、会話は人間がやる」という線引きと、「事実は人が持ち込み、AIは構成と言葉を整える」という4要素の型にあります。 型を覚えれば、ページにない業務にも同じ品質のプロンプトを自分で書けるようになります。
理解度チェック
OpenAI Academy「マネージャー向け ChatGPT」の冒頭は、マネジメント業務の多くが「_____」とフォローアップに費やされると述べ、ChatGPTの適用範囲を会話そのものではなくその前後に置いている。