問いの設定:表示価格が同じ2モデルを、どう選び分けるか

2026年9月1日に Claude Fable 5.1、その2日後の9月3日に GPT-6 Astra が出ました。 そして両者の料金は入力$10 / 出力$50 per MTok で完全に一致しています。 コンテキストはどちらも約1Mトークン、最大出力は128K。カタログスペックの上では、選ぶ手がかりがほとんどありません。

さらに厄介なのは、第三者の総合指標でも決着がつかないことです。 Artificial Analysis(以下AA)のIntelligence Index v4.3では、両モデルの最大構成が53対53で並びます。 ベンダー公表のベンチマークは自社有利に並ぶのが常ですが、独立指標で同点というのは「どちらでもいい」を意味しません。 実際には、同じ表示価格で同じスコアなのに、請求書は2倍以上変わります

この記事では、その差がどこから来るのかを①トークン消費量 ②キャッシュ単価 ③272Kの長文料金の3点で分解し、 そのうえでAPI制約・安全性の違い、そして「どのワークロードをどちらに流すか」というルーティング設計まで整理します。 結論を先に書くと、単発の難問はAstra、キャッシュを温め続ける長時間エージェントと超長文はFable 5.1です。

スペックと料金:同じ表示価格、違う請求書

まず全体像です。表示価格が一致する一方で、キャッシュ読み取りと長文料金という2つの「見えにくい欄」で構造が違います

項目GPT-6 AstraClaude Fable 5.1差の意味
リリース日2026-09-032026-09-012日差。ほぼ同時期の世代
モデルIDgpt-6-astraclaude-fable-5-1
入力 / 出力$10 / $50 per MTok$10 / $50 per MTok完全に同じ
キャッシュ読み取り$1.00(入力の0.1倍)$0.25(入力の0.025倍)Fable 5.1が4倍安い
キャッシュ書き込み$12.50$12.50(5分) / $20.00(1時間)Fable側にTTL選択がある
長文料金入力272K超で入力2倍・出力1.5倍なし超長文はFable 5.1が有利
バッチ標準の50%($5 / $25)標準の50%($5 / $25)同じ
コンテキスト / 出力1,050,000 / 128K1,000,000 / 128K実質同等
知識カットオフ2026年4月30日2026年6月Fable 5.1が約1〜2か月新しい
推論の制御low / medium / high / xhigh / maxlow〜xhigh(thinking常時ON)Astraはmaxまで刻める
データ保持通常のAPIポリシー30日保持が必須(ZDR不可)ZDR組織はFable 5.1を使えない
入出力モダリティ入力: テキスト・画像 / 出力: テキスト入力: テキスト・画像 / 出力: テキスト同じ

この表で実務上いちばん効くのは最後から2番目の行、データ保持です。 Fable 5.1は「Covered Model」に分類され、30日間のデータ保持が有効なワークスペースからしか呼べません。 Zero Data Retention(ZDR)を契約要件にしている組織では、そもそもFable 5.1が選択肢に入らないため、比較の前に確認が必要です。

ベンチマーク:勝敗が綺麗に分かれる

ベンダー公表値:数学・操作・サイバーはAstra、深い推論はFable

両社の公表値と第三者集計を並べると、領域ごとにはっきり勝ち負けが決まるのが分かります。 Astraが取るのは研究レベルの数学、画面操作、サイバー能力。Fable 5.1が取るのはツールを使った難問、科学コード、長文からの情報接続です。

ベンダー公表値・第三者集計での比較(%、高いほど良い)

差が大きいのは FrontierMath Tier 4(97.6% 対 87.8%)と ExploitBench(100% 対 70%)で、いずれもAstraが約10〜30ポイント上です。 逆に Humanity's Last Exam(ツールあり) では57.2% 対 65.0%とFable 5.1が8ポイント近く上回ります。 エージェントコーディングの Terminal-Bench 4.0 は57.7% 対 55.8%で、実質的に差がありません。

第三者の内訳:総合53対53の中身は非対称

AAのIntelligence Index v4.3は10個の評価の合成です。最大構成での総合は53対53の同点ですが、内訳を開くと得意分野が真逆だと分かります。

評価(AA Intelligence Index v4.3)GPT-6 Astra (max)Fable 5.1 (max effort)優位
AA-Briefcase15621662Fable 5.1
GDPval-AA v2(知識労働)15801764Fable 5.1
AutomationBench-AA68%59%GPT-6 Astra
Terminal-Bench v4.059%52%GPT-6 Astra
SciCode56%63%Fable 5.1
Humanity's Last Exam55%59%Fable 5.1
GDP.pdf(PDF読解)31%26%GPT-6 Astra
CritPt32%30%GPT-6 Astra
AA-Omniscience4343同点
AA-LCR v1.1(長文推論)81%85%Fable 5.1
総合 Intelligence Index5353同点

読み取れる構図はこうです。Astraは「手を動かす」評価(AutomationBench、Terminal-Bench、PDF読解)で勝ち、Fable 5.1は「考え込む・読み込む」評価(GDPval、SciCode、HLE、長文推論)で勝つ。 総合が同点なのは強みが打ち消し合っているだけで、「どちらでも同じ結果が出る」わけではありません。 自分のワークロードがどちらの列に近いかを見て選ぶのが、総合スコアを見るより確実です。

実コスト:表示価格が同じでも請求書は2倍以上ひらく

ここが本題です。AAの計測では、Intelligence Indexの1タスクあたりのコストがAstra $3.26、Fable 5.1 $7.63と2.3倍の差になります。 同じ$10 / $50なのにこうなる理由は3つあり、しかも3つの向きは同じではありません

理由①:1タスクの出力トークンが27k対78k(Astra有利)

最大の要因はトークン消費量です。AAの計測では、同じスコアを出すために使う出力トークンが、Astraは1タスク27k、Fable 5.1は78kと約2.9倍違います。 内訳のうち推論トークンが17k対47kで、差の大半はここです。 出力単価が同じ$50 per MTokなら、出力トークンの差はそのままコスト差になります

AA Intelligence Index 1タスクあたりの消費量とコスト(低いほど安い)

ただし速度は逆です。出力速度はFable 5.1が69トークン/秒、Astraが56トークン/秒でFable 5.1が上回ります。 それでも1タスクを終えるまでの総トークン数が3倍近く違うため、エンドツーエンドの応答時間はFable 5.1のほうが短い(AA計測で約283秒 対 約331秒)という結果になります。 つまりAstraは「トークン単位では速くないが、少ないトークンで済ませる」、Fable 5.1は「たくさん考えるが、吐き出すのは速い」という性格差です。

理由②:キャッシュ読み取りが4倍差(Fable 5.1有利)

逆向きに効くのがキャッシュです。キャッシュ読み取りはAstraが$1.00、Fable 5.1が$0.25で4倍違います。 他のClaudeモデルは基本入力の0.1倍ですが、Fable 5.1だけ0.025倍まで下がっています。

これが効くのは、長いプレフィックスを何十回も読み直すエージェントループです。 具体的に計算してみます。1セッション50ターン、毎ターンの入力80Kトークンのうち90%がキャッシュヒット(72K read + 8K 新規)、出力は毎ターン4Kという条件です。

内訳GPT-6 AstraClaude Fable 5.1
非キャッシュ入力 400K(50×8K)$4.00$4.00
キャッシュ読み取り 3.6M(50×72K)$3.60$0.90
出力 200K(50×4K)$10.00$10.00
1セッション合計$17.60$14.90
1日100セッション × 30日$52,800$44,700

同じトークン数を流す前提なら、キャッシュ主体のループではFable 5.1が約15%安くなります。 ただしこの計算は「出力トークン数が同じ」という仮定を置いています。 理由①の通りFable 5.1は思考が長いので、実際には出力側が膨らんでこの差を食い潰す可能性があります。どちらが安いかは、自分のワークロードの「キャッシュ読み取り量 対 出力トークン量」の比で決まります

理由③:Astraは272Kを超えると割増(Fable 5.1有利)

3つめは長文料金です。Astraは入力272Kトークンを超えるリクエストで入力・キャッシュが2倍、出力が1.5倍になります。Fable 5.1にこの割増はありません。 1Mのコンテキストは両者にありますが、「入れられる」ことと「同じ単価で入れられる」ことは別です。

400Kトークンの資料を丸ごと読ませて2万トークン出力させる、という1回のリクエストで比べます。

内訳(入力400K / 出力20K の単発リクエスト)GPT-6 AstraClaude Fable 5.1
入力単価$20.00 per MTok(272K超で2倍)$10.00 per MTok
入力コスト$8.00$4.00
出力単価$75.00 per MTok(1.5倍)$50.00 per MTok
出力コスト$1.50$1.00
合計$9.50$5.00

同じ内容で約1.9倍の差です。長文推論のAA-LCR v1.1でもFable 5.1が85%対81%と上なので、272Kを超える入力を日常的に扱うなら、性能面でもコスト面でもFable 5.1に寄せる理由があります。 逆にAstra側で長文を扱うなら、272Kを閾値として設計する(要約ではなく索引化して参照する、分割して投げる)ほうが合理的です。

API制約:壊れ方の形が違う

どちらのモデルも「前世代からそのまま差し替え」では動きません。ただし壊れる箇所の性質が違います。 Astraはパラメータの受付が厳しくなった方向、Fable 5.1は会話履歴の扱い方に制約が入った方向です。

観点GPT-6 AstraClaude Fable 5.1
推論の制御low / medium / high / xhigh / max。none は廃止で400エラー。xhighmax はResponses APIのみlow〜xhigh。thinkingは常時ONdisabled 不可
サンプリング系temperaturetop_plogprobs非対応(400)従来通り指定可
強制ツール呼び出し利用可tool_choiceany / tool400エラーauto+プロンプト明示、strict: true、structured outputsに置き換える
会話履歴の扱い通常通り。編集の制約なしappend-onlyが必須。過去ターンを編集・並べ替え・削除すると以降のthinking blockが無効化される(preserved thinking)
モデル切り替え制約なしthinking blockは生成したモデルしか読めない。フォールバック時は推論が落とされる(エラーにはならない)
思考の可視化生のCoTは返さず要約のみdisplay: "updates"(ベータ)で推論を隠したまま進捗メモだけ受け取れる
非対応の経路Realtime・Assistants・fine-tuning・Embeddings・音声・画像生成Priority Tier非対応。ZDRワークスペースから呼ぶと400
速度オプションFast mode(料金2倍・速度約2.5倍)該当なし

両方を並行運用するハーネスを書く場合、厳しい側の制約に合わせて1本にまとめるのが実務的です。 具体的には「temperature を渡さない」「forced tool useを使わない」「会話履歴をappend-onlyで扱う」の3つを共通ルールにすれば、どちらのモデルでも同じループが回ります。

// 両モデル共通で通る呼び出しに寄せる例
type Provider = 'openai' | 'anthropic';

// 共通ルール
//  1. temperature / top_p / logprobs は渡さない(Astraで400)
//  2. tool_choice は auto 固定。確実に呼ばせたいならプロンプトで名指しする(Fable 5.1で400)
//  3. history は append-only。過去ターンの編集・削除をしない(Fable 5.1のpreserved thinking)
async function ask(provider: Provider, history: Message[], tools: Tool[]) {
  if (provider === 'openai') {
    return openai.responses.create({
      model: 'gpt-6-astra',
      reasoning: { effort: 'high' },   // none は廃止。xhigh / max はResponses APIのみ
      tools,
      input: history,
    });
  }
  return anthropic.messages.create({
    model: 'claude-fable-5-1',
    max_tokens: 8192,
    output_config: { effort: 'high' },
    tools: tools.map((t) => ({ ...t, strict: true })), // 強制の代わりにスキーマで担保
    tool_choice: { type: 'auto' },
    messages: history,                  // thinking block はそのまま返す
  });
}

安全性:制限のかけ方が違う

セキュリティ関連の業務でどちらを使うかは、性能よりも「どう止まるか」で決まります。ここも設計思想が対照的です。

観点GPT-6 AstraClaude Fable 5.1
枠組み上の分類Preparedness Frameworkのサイバーで初のCriticalcyber・bio等の安全分類器を搭載
制限のかけ方能力そのものを制限。一般提供版はPoCエクスプロイト生成等を拒否分類器で判定。ソースコードの脆弱性発見は許可
緩和版の入手審査制のDaybreakプログラム審査制のProject Glasswing(Mythos 5.1)
誤検知の状況Criticalの分類器が保守的に働き、防御作業でも追加レビューや拒否が起きるFable 5比でcyberの誤検知が約60%減、初歩的な生物学・医療は約85%減
拒否の返り方拒否として応答HTTP 200 で stop_reason: "refusal"。サーバー側 fallbacks で同一呼び出し内に再実行可
組織側の初期設定Enterpriseワークスペースはデフォルト無効。管理者が有効化30日データ保持が有効なワークスペースのみ
監査上の注意CoTの監視可能性はSolより低下したとSystem Cardが明記出力に統計的テキストウォーターマークが付与される

実務的な含意は「防御的なセキュリティ作業では、素で通りやすいのはFable 5.1」です。 Astraの一般提供版はCriticalの分類を受けて能力に制限がかかっており、正当な作業でも止まることが報告されています。 一方Fable 5.1は誤検知を減らす方向にチューニングされ、ソースコードの脆弱性発見は明示的に許可されています。 ただしどちらも拒否は起こるので、拒否ハンドリングとフォールバックは最初から組み込むのが前提です。 継続的にセキュリティ業務で使うなら、DaybreakかProject Glasswingへの申請を検討する段階に入ります。

ルーティング設計:どちらかに寄せない

ここまでの差分は、「片方が優れている」ではなく「コスト構造と得意分野が直交している」という形をしています。 だとすれば合理的な設計は一方に寄せることではなく、ワークロードの形で振り分けることです。

flowchart TD
    S["タスクが来る"] --> Z{"ZDR必須の組織か"}
    Z -->|"はい"| A0["GPT-6 Astra<br/>Fable 5.1は選択肢外"]
    Z -->|"いいえ"| L{"入力が272Kを超えるか"}
    L -->|"超える"| F1["Claude Fable 5.1<br/>長文料金なし・AA-LCRで優位"]
    L -->|"超えない"| C{"請求書で最大の行はどれか"}
    C -->|"キャッシュ読み取り"| F2["Claude Fable 5.1<br/>読み取り単価が4分の1"]
    C -->|"出力トークン"| A1["GPT-6 Astra<br/>同スコアを3分の1のトークンで出す"]
    C -->|"どちらとも言えない"| D{"タスクの性質"}
    D -->|"画面操作・数学・PDF読解"| A2["GPT-6 Astra"]
    D -->|"深い推論・科学コード・知識労働"| F3["Claude Fable 5.1"]
    D -->|"防御的セキュリティ"| F4["Claude Fable 5.1を第一候補<br/>拒否時のフォールバックは必須"]
2モデルのルーティング判断。制約条件(ZDR・272K)から先に絞り、残りをコスト構造とタスク性質で振り分ける

ユースケース別に整理すると次の通りです。

ユースケース推奨理由
ブラウザ・デスクトップ操作の自動化GPT-6 AstraScreenSpot-Pro 92.7%、AutomationBench-AA 68%。OSWorld 2.0では所要時間も約47%短縮
研究レベルの数学・物理GPT-6 AstraFrontierMath Tier 4で97.6%対87.8%。CritPtでも優位
1Mコンテキストを使う資料横断分析Claude Fable 5.1272K超の長文料金がなく、AA-LCR v1.1も85%対81%
ツールを何十回も呼ぶ長時間エージェントClaude Fable 5.1キャッシュ読み取りが4分の1。ただし出力トークン量とのバランスで要検証
知識労働の成果物生成(文書・スライド・表計算)Claude Fable 5.1GDPval-AA v2で1764対1580、AA-Briefcaseでも優位
エージェントコーディングほぼ互角Terminal-Bench 4.0は57.7%対55.8%。DeepSWEはAstra優位、AAのCoding Agent IndexはFable優位で拮抗
防御的セキュリティ(コードレビュー・検知開発)Claude Fable 5.1Astraの一般版はCritical分類で能力制限。Fableは誤検知が約60%減
ZDRが契約要件の環境GPT-6 AstraFable 5.1は30日データ保持が必須で呼び出せない
コストを最優先する単発タスクGPT-6 Astra(low effort)AA計測でタスクあたり$0.82。Fable 5.1のlow effortは$2.37

まとめ

  • ① 表示価格が同じでも実コストは2倍以上ひらく。 入力$10 / 出力$50は完全に一致し、AAの総合指数も53対53で同点。それでもタスクあたりのコストは$3.26対$7.63になる。差を作るのは出力トークン量(27k対78k、Astra有利)、キャッシュ読み取り単価($1.00対$0.25、Fable有利)、272Kの長文料金(Astraのみ割増、Fable有利)の3点で、向きが揃っていないためワークロードの形で逆転する
  • ② ベンチマークの勝敗は領域で綺麗に分かれる。 Astraは「手を動かす」評価(画面操作・自動化・PDF読解)と研究数学・サイバー、Fable 5.1は「考え込む・読み込む」評価(知識労働・科学コード・HLE・長文推論)。総合が同点なのは強みが打ち消し合った結果であって、互換という意味ではない。ベンダーの比較表は自社が勝つ行だけが載るので、選定は第三者の内訳で行う。
  • ③ 制約条件から先に絞り、残りをコスト構造で振り分ける。 ZDR必須ならFable 5.1は選択肢外、272K超を常用するならFable 5.1。それ以外は請求書の最大行(キャッシュ読み取りか出力トークンか)で決める。API制約は厳しい側に合わせて「temperatureを渡さない・forced tool useを使わない・履歴をappend-onlyにする」の3ルールで1本化できる。どちらを使う場合も、拒否時のフォールバックと重大操作の承認フローはモデルの外側に置く。

理解度チェック

問題 0 / 50%
Q1

GPT-6 Astraは入力____トークンを超えるリクエストに入力2倍・出力1.5倍の長文料金を課すが、Claude Fable 5.1には同様の割増がない(数値で回答)。