企業概要 — 「捨てて選ぶ」を体現するノンデスク特化HRTech

株式会社ROXX(ロックス、英名 ROXX, inc.、証券コード241A、東証グロース)は、 年収200万円台・非大卒・非正規雇用といった「ノンデスクワーカー(製造・建設・運輸・サービス等の現場職)」を正社員転職へ導く転職プラットフォーム「Zキャリア」を主力とするHRTechスタートアップである。 2013年に当時青山学院大学の学生だった中嶋汰朗(なかしま・たろう)が「株式会社RENO」として創業し、 社名をRENO → SCOUTER → ROXXと2度変えながら、主力事業そのものを何度も入れ替えてきた稀有な企業だ。

ROXXを語るうえで欠かせないのが、「主力事業を躊躇なく捨てて、勝てる一点に資源を集中する」という経営スタイルである。 創業期のC2C人材紹介「SCOUTER」は畳み、2024年9月に東証グロースへ上場した直後の2025年9月には、 もう一方の柱だったリファレンスチェック「back check」事業を約19.5億円でエン・ジャパン(現エン株式会社)へ売却した。 この売却で得たのは資金だけではない——「ノンデスク×Zキャリア」への一点集中という戦略的明快さだ。 back checkの買い手であるエン株式会社が、 同事業を自社「ASHIATO」と統合してリファレンスチェックの国内スタンダードを狙うのとは対照的に、 ROXXはリクルートパーソルら大手が手薄な 「年収400万円未満の現場職」という巨大な空白市場に、AIを武器に攻め込んでいる。

社名「ROXX」は、ロックンロール文化への憧れに由来する。 「ROX」は「最高にイケてる」を意味するスラング(rocks)、末尾の「XX」はメンバーやサービスを表す「X」の重なりであると同時に、 中嶋CEOが敬愛するメタルバンドMötley Crüeのベーシスト Nikki Sixxへのリスペクトが込められている。 「この先何十年も使い続けられる傑作(サービス)を作りたい」—— 特定のサービス名(SCOUTER)を社名にしていた過去への反省と、 「サービスは入れ替えても、ロックし続ける器でありたい」という思想が、この風変わりな社名に凝縮されている。

沿革 — RENO・SCOUTER・ROXX、2度のピボットと事業売却

ROXXの13年の歴史は、「うまくいかなければ、潔く捨てて作り直す」の連続だった。 元バンドマンの大学生が四季報を片手に電話営業から始めた新卒紹介事業は、 C2C人材紹介「SCOUTER」へ、さらに法人向け求人DB「agent bank」へ、そしてノンデスク特化の「Zキャリア」へと姿を変えた。 その過程で社名を2度変え、上場後にはもう一つの柱だったリファレンスチェック事業すら手放している。

中嶋汰朗、東京に生誕

後のROXX創業者。学生時代はハードロックバンドで活動し、「採用=メンバー集め、上場=メジャーデビュー」という経営観の原点となる

株式会社RENOを設立(青山学院大学在学中に創業)

中嶋が大学の「ベンチャー起業論」に影響を受けて起業。プロダクトもエンジニアも資金もなく、四季報を片手にした電話営業で新卒人材紹介事業からスタート

C2C人材紹介「SCOUTER」ベータ版リリース

個人が「副業エージェント」として知人を企業に紹介し、マッチング成立で報酬を得るソーシャルヘッドハンティング。新しいモデルとして注目を集める

プレシリーズA 6,100万円調達、社名を「株式会社SCOUTER」へ変更

CROOZ・East Ventures・三菱UFJキャピタルらから調達。主力サービス名に社名を統一

シリーズA 約1.5億円調達

ANRI、SMBCベンチャーキャピタル、Skyland Venturesらが参加。累計調達は約2.1億円に

資金枯渇の経営危機 → ピボット決断

SCOUTERがPMF未達のまま採用・マーケに投資し成長鈍化。「数か月でキャッシュが尽きる」状況に。ユーザーだった人材紹介会社の声を起点に法人向けサービスへ舵を切る

法人向け求人データベース「SARDINE」リリース

人材紹介会社が掲載求人へ自社の転職希望者を紹介できるクラウド求人DB。SCOUTERは後にクローズ

社名を「株式会社ROXX」へ変更/パーソルキャリアと資本業務提携・約3.7億円調達

特定サービス名に縛られない器としてのブランドへ。累計調達は約7億円に。中嶋いわく「死ぬまでロックし続けたい」

「SARDINE」を「agent bank」へ改称/リファレンスチェック「back check」を正式リリース

月額定額制のオンライン完結型リファレンスチェック。電話式の常識を覆し低コスト化。2事業体制へ

シリーズBを複数回実施、VC累計調達 約35億円に

サイバーエージェント、グローバル・ブレイン、日本郵政キャピタル、One Capital、マイナビらが参加(2022年11月のシリーズB10億円で累計約35億円)

agent bankを統合・改称し「Zキャリア プラットフォーム」始動

ノンデスクワーカーと未経験採用に特化。doda連携を含め求人6.2万件超、累計推薦40万人超の規模に

東京証券取引所グロース市場へ上場(証券コード241A)

公開価格2,110円・初値1,941円・想定時価総額約153.5億円。あえて赤字のまま上場し成長投資を継続する「戦略的赤字上場」

「Zキャリア AI面接官」「Zキャリア ダイレクト(AIスカウト)」を投入

採用面接の一部をAIが代替。未経験層特化の「日本初」ダイレクトスカウトも開始

リファレンスチェック「back check」事業をエン・ジャパンへ約19.5億円で売却

新設分割でback check株式会社を設立し全株式を譲渡。譲渡益でZキャリアへ経営資源を集中。事業はZキャリア一本足へ

みずほフィナンシャルグループが「Zキャリア AI面接官」を導入(金融機関初)

4月には日本ピザハット(全国600店舗超)も導入。AI面接官の外販が大企業へ拡大

この沿革で決定的な転換点は4つある。 ①2018年のピボット——資金枯渇の崖っぷちで個人向けSCOUTERを捨て、法人向けへ転換し生き延びた。 ②2019年の社名変更——単一サービス名を社名にしていた反省から、「事業を入れ替え続ける器」としてROXXへ。 ③2024年9月の戦略的赤字上場——共同創業者との約束と外部資本への責任から、黒字化前にあえて上場し投資を継続。 ④2025年9月のback check売却——上場企業がIPO後わずか1年で主力の一角を手放し、Zキャリアへ全賭けした。 「捨てる勇気」こそがROXXの一貫した行動原理である。

創業者・中嶋汰朗 — バンドマンの経営観と「地道な積み上げ」

ROXXのカルチャーを理解する鍵は、創業者・中嶋汰朗(1992年東京生まれ)にある。 青山学院大学在学中、講義「ベンチャー起業論」に登壇する起業家たちに影響を受け、 2013年11月、21歳で株式会社RENOを創業した。 特筆すべきは、彼が元ハードロックバンドのメンバーだったことだ—— 「採用=メンバー集め、上場=メジャーデビュー」「アルバムを何枚も出すように次々と事業を生み出したい」という、 音楽になぞらえた独特の経営観を持つ。バリュー「ROCK / BAND / SHOW」も、この世界観の直接的な表れである。

中嶋の哲学を象徴するのが、2018年の資金枯渇危機からの学びだ。 「大きなことをしよう、という地に足が着かない状態」を否定し、 「日々、正しい行動を積み重ねること」を経営方針に据えた。 この「地道な積み上げ」志向は、上場後も「中長期に成長しなくなることは上場会社経営として失格」という規律につながり、 目先の利益より持続的成長への投資を優先する姿勢の根拠となっている。 情熱的な世界観(ROCK/BAND/SHOW)と、後述する識学ベースのドライな組織規律の「情熱×規律」のハイブリッドが、ROXXの二面性である。

ビジネスモデル — 三者プラットフォームと二重収益モデル

Zキャリアの本質は、「求職者 × 求人企業 × 人材紹介会社(パートナー)」の三者をつなぐプラットフォームである点にある。 既存の人材紹介は「法人営業3年以上」などの条件で高年収ホワイトカラーに偏り、転職者全体のごく一部しかカバーしていない—— この構造的空白を、ROXXは「ノンデスク・未経験層」に特化することで攻めている。 全国に約2.2万社ある人材紹介会社の約9割が従業員10人以下という事実に着目し、 自前で求人を開拓しきれない小規模エージェントを束ねるサプライチェーンの取り込みが独自の強みだ。

graph LR
    Seeker["求職者<br/>ノンデスク・未経験層<br/>年収400万円未満・30歳未満中心<br/>累計登録 56.7万人"]
    Company["求人企業<br/>建設・製造・物流・飲食・販売<br/>求人掲載は無料"]

    subgraph ROXX["Zキャリア プラットフォーム(ROXX)"]
      PF["求人DB 約8万件・候補者DB<br/>AIマッチング / AIスカウト / AI面接官"]
      CA["自社キャリアアドバイザー<br/>118人(ルートA)"]
      Partner["パートナー人材紹介会社<br/>約400社・9割が10人以下(ルートB)"]
    end

    Seeker -->|無料登録・職歴| PF
    Company -->|求人を無料掲載| PF
    PF --> CA
    PF --> Partner
    CA -->|送客・成約| Company
    Partner -->|送客・成約| Company
    Company -->|成功報酬 平均約63万円| ROXX
    Partner -->|月額利用料 ARPU約21万円| PF
Zキャリアの三者プラットフォーム構造と二重収益モデル(数値は2024〜2026年の各時点)

収益は2つのモデルのハイブリッドで構成される。

  • パフォーマンス収入(成功報酬): 求人企業は求人掲載無料・採用決定時のみ課金される完全成果報酬型。平均成約単価は約63万円(2026/9期Q1で63.1万円)。 ROXX自社のキャリアアドバイザー経由で決定した場合(ルートA)はテイクレート100%
  • リカーリング収入(月額サブスク): 全国約400社のパートナー人材紹介会社へ求人DB・候補者管理ツールを月額提供。1社あたりARPU約21万円/月。 パートナー経由(ルートB)の成約ではROXXの取り分は成約単価の約17%(約10万円)で、残りはパートナーが受け取るため、紹介会社にプラットフォームを使うインセンティブが働く。

このモデルの社会的意義は数字に表れている。Zキャリア利用者の年収は転職により平均約258万円 → 約313万円(+約55万円)へ上昇する。 「成功報酬という高単価・成長ドライバー」と「月額サブスクという安定リカーリング」の両輪により、 景気変動に弱い成功報酬一本足のリスクを緩和しているのも特徴だ。

財務・成長 — 6年で売上16倍、back check売却益で初の黒字

ROXXの売上高は2019年9月期の281百万円から2025年9月期の4,513百万円へ、6年で約16倍に成長した。 一方で、ノンデスク市場を取りに行く先行投資(採用・マス広告)により営業損益は長く赤字が続いてきた。 2025年9月期に当期純利益が初めて黒字(+1,051百万円)に転じたが、これはback check事業の譲渡益(約19.48億円)による特別利益が主因で、営業損益は△721百万円と赤字のままだ。 本業ベースの黒字化は2026年9月期の会社予想(営業利益+45百万円)で初めて見込まれている

株式会社ROXX 売上高と営業損益の推移(億円、FY2019〜FY2026会社予想)

事業の中身を見ると、2024年9月期の売上34.76億円の内訳は パフォーマンス収入53.2%(18.47億円)/Zキャリアのリカーリング収入30.2%(10.49億円)/back checkのリカーリング収入16.7%(5.79億円)だった。 すでにZキャリア関連で売上の8割超を占めており、back check売却の影響は限定的だったことがわかる。 2025年9月期はZキャリア38.78億円(+33.9%)/back check 6.34億円(+9.5%)で、合計45.13億円。

成長の根幹はZキャリアの求職者登録数の伸びにある。 累計登録者は2023年9月末の約25万人から、2026年9月期Q1には56.7万人(前年同期比+27.7%)へと拡大した。 この求職者プールの厚みが、求人企業とパートナー紹介会社を引き寄せるネットワーク効果の源泉だ。

Zキャリア 累計求職者登録数の推移(万人、パートナー紹介会社登録分を含む)

プロダクト全体像 — Zキャリアという採用エコシステム

現在のROXXのプロダクトは、すべて「Zキャリア」というブランドの傘下に統合されている。 単なる求人マッチングにとどまらず、「求人DB → マッチング → AI選考 → 生活支援」という採用バリューチェーン全体を縦に統合しているのが特徴だ。

  • Zキャリア プラットフォーム(旧agent bank): 約400社の人材紹介会社と求人DBを共有する基盤。doda等との外部連携で求人約8万件を確保。
  • Zキャリア エージェント: ROXX自社のキャリアアドバイザーが求職者と直接面談して送客するエージェント型紹介。
  • Zキャリア ダイレクト(2024年11月〜): 未経験層特化の「日本初」を謳うダイレクトスカウト。AIがターゲット設定・文面作成・送信まで自動代行するAIスカウト機能を搭載。
  • Zキャリア AI面接官: 採用面接の一部をAIが代替する成長ドライバー(詳細は次章)。
  • 生活支援サービス群: 光熱費・通信費を支援する「ライフサポート」、失業保険の受給診断、スマホで履歴書作成、ライフカード提携の「Z CAREER CARD」など。ノンデスク層特有の「転職前後の生活不安」を解消し、求職者をエコシステムに囲い込む。

技術的には新旧2系統のスタックが併存する。 新規のAIプロダクト群は Python(Flask / FastAPI)+ TypeScript(React / Remix)+ GCP(Cloud Run) のマイクロサービス構成で、 データベースは Cloud SQL for PostgreSQL(Prisma ORM)、インフラはTerraformでコード化、監視はSentry。 一方、売却前のback checkや旧agent bank系は PHP(Laravel)+ Vue.js / Nuxt + AWS で構築されていた。 ROXXはかつて「Laravel・Vue.jsといえばROXX」を掲げる技術ブランディングで知られたが、 AI時代の到来とともにPython×GCP×LLMへと開発の重心を移している。

深掘り:Zキャリア AI面接官 — 成長を賭ける「AI採用」の最前線

ROXXが現在もっとも資源を投じているのが、特許出願中の「Zキャリア AI面接官」だ。 これは単なる録画面接ツールではなく、AIが面接官として対話し、候補者を多角的に評価するプロダクトである。 求職者はスマホ1つで24時間365日面接を受験でき、企業は夜間・休日も含む柔軟な選考体制を構築できる。 選考リードタイムは従来比で約1/3に短縮されるという。 ノンデスク領域は応募から面接までの離脱が多く、「いつでも受けられる」ことがそのまま採用力に直結する。

技術アーキテクチャ — STT→LLM→TTSのリアルタイム対話パイプライン

AI面接官の中核は、音声認識(STT)→ 対話・質問生成(LLM)→ 音声合成(TTS)→ 多角評価という一連のパイプラインだ。 ROXXの開発者ブログ(2025年8月公開)によれば、各ステップで用途に最適なAIプロバイダを使い分けている。

graph LR
    Cand["求職者<br/>スマホで24時間365日受験"]

    subgraph Pipeline["AI面接官パイプライン(GCP Cloud Run マイクロサービス)"]
      STT["音声認識 STT<br/>Deepgram(日本語)"]
      LLM["対話・質問生成 LLM<br/>OpenAI gpt-4o / gpt-4.1"]
      TTS["音声合成 TTS+アバター<br/>OpenAI Text-to-Speech"]
      Eval["多角評価<br/>Google Gemini<br/>(言語+非言語)"]
    end

    Report["100点満点スコア+AIレポート<br/>カスタム評価基準で可視化"]
    ATS["求人企業 / 人材紹介会社<br/>sonar ATS とAPI連携"]

    Cand -->|発話| STT
    STT --> LLM
    LLM --> TTS
    TTS -->|質問を音声で提示| Cand
    LLM --> Eval
    Eval --> Report
    Report --> ATS
Zキャリア AI面接官のリアルタイム対話・評価アーキテクチャ(出典:ROXX開発者ブログ 2025年8月)
  • 音声認識(STT): Deepgram API(日本語対応)でリアルタイムに発話をテキスト化。
  • 対話・質問生成(LLM): OpenAI の gpt-4o / gpt-4.1 系が面接官として質問を組み立て、深掘りを行う。
  • 音声合成(TTS)・アバター: OpenAI Text-to-Speechと表情豊かな新アバター(女性アバター+AI音声モデル)。「うなずき」で対面に近い安心感を演出。
  • 多角評価: Google Gemini APIが言語情報+非言語情報(話すテンポ、イントネーション、表情、ジェスチャー、反応速度)をスコア化。カスタム評価基準に応じて100点満点で客観評価し、平均スコアとの相対比較も可能。

インフラ面では、サービスごとに最適なフレームワークを選ぶマイクロサービス設計が貫かれている—— 候補者の面接体験はFlask+React、企業管理画面はRemix、録画・視聴基盤はFastAPI+React、バックグラウンド処理はCloud Run Functions、という具合だ。 企業間のデータはRow Level Security(RLS)によるマルチテナント分離と企業ごとIP制限で厳格に保護される。 Zキャリアからの面接依頼を受けて専用のCloud Run Functionsがセッションを自動初期化し、 採用管理システム「sonar ATS」ともWebhook/APIで連携する。

AI採用の倫理 — 職業安定法・公正採用ガイドラインへの準拠

AIが人の採否に関与する以上、公平性・法令順守は避けて通れない論点だ。 ROXXは2025年8月にAI倫理ガイドラインを公開し、 職業安定法・厚労省の公正採用選考ガイドラインに準拠した運用を明示した。 技術面でも、STT→LLM→TTSの各ステップに適切なガードレールを実装し、 差別的・センシティブな話題の制御や、本籍・思想信条など採用選考で扱うべきでない事項の排除を担保している。 AIによる採用は効率化と同時に「アルゴリズムの公平性」という社会的信頼を勝ち取れるかが普及の鍵であり、 この領域はHireVueMetaviewといった海外勢、 そしてback checkの売却先エン・ジャパンがPeopleXと設立した合弁「エンPeopleX」とも競合・並走する戦場になっている。

外販と導入実績 — みずほFGからピザハットまで

当初Zキャリア内の選考専用だったAI面接官は、2025年1月から外部の採用チャネル・人材紹介会社経由でも単独利用可能になり、 「自社プラットフォームに閉じない外販プロダクト」へと進化した。 2026年2月にはsonar ATSとのAPI連携を開始し、既存の採用フローへ組み込みやすくしている。 導入は大企業へと広がっている。

  • みずほフィナンシャルグループ(2026年1月): キャリア採用に導入。金融機関への初導入として注目され、後に法人DX支援「みずほデジタルコネクト」のソリューションにも追加。
  • アーキ・ジャパン(建設エンジニアリング): 年間1万件超の面接をAI化
  • 日本ピザハット(2026年4月): 全国600店舗超のアルバイト採用に導入。
  • その他: 大成建設、サカイ引越センター、SOMPOひまわり生命、LayerX、マルハン東日本など、業種を横断して採用が進む。

さらにROXXは、AIスカウト(応募獲得の自動化)に加え、2026年5月には CA(キャリアアドバイザー)の面談を即時スコアリングしハイパフォーマーの暗黙知を形式知化する「AIフィードバックシステム」、 新人の面談ロープレ工数を約1/4に削減する「AIロープレ」の開発・導入も進めている。 AIでキャリアアドバイザーの人件費を抑えつつ生産性を上げる——これがZキャリアの収益性改善の核心だ。 一方で中嶋CEOは「すべてをAI・自動化で解決はできない。PC未保有者や履歴書作成に不安を持つ層が多い」と述べ、 AIと人的サポートのハイブリッドを強調している。

市場・競合 — 「年収400万円未満」という巨大な空白

ROXXが狙うノンデスクワーカー市場は巨大だ。日本の全就業者の約67%がノンデスクワーカーであり、 給与所得者の約半数が年収400万円未満とされる。 中嶋CEOはこの転職市場を約6,500億円規模(同社推計)と見積もり、 ノンデスク領域に特化した大手サービスが「ほとんど存在しない」空白を強調する。 2030年に300万人超、2040年に1,000万人超とされる労働力不足は、現場職ほど深刻な構造的追い風だ。

この市場には若手・未経験向けの転職支援企業がひしめくが、 ROXXの差別化は「プラットフォーム+AI+自社CA」のハイブリッド小規模紹介会社の取り込みにある。

サービス 運営 ターゲット 提供形態 Zキャリアとの違い
Zキャリア 株式会社ROXX(241A) ノンデスク・未経験/年収400万円未満・30歳未満中心 三者プラットフォーム+AI+自社CA 本記事の主役(比較基準)
就職カレッジ ジェイック(7073) 既卒・第二新卒・フリーター 研修+集団面接会(対面) 研修・対面集団型。ZはDX/AIで効率化
ハタラクティブ レバレジーズ 20代フリーター・既卒・第二新卒 対面エージェント 大手の対面型。Zは紹介会社も束ねる三者PF型
UZUZ UZUZ IT志向の既卒・第二新卒 対面エージェント(IT特化) IT特化。Zは製造・建設等の現場職が中心
タイミー タイミー(215A) スポットワーカー 単発バイトのマッチング 雇用形態が異なる(スポット vs 正社員転職)。人材プールは一部重なる

なお、ROXXがかつて運営したリファレンスチェック「back check」は、 2021年に東京商工リサーチ調査で「オンラインリファレンスサービスの年間実施人数No.1」とされた実績を持つが、 2025年9月にエン・ジャパンへ売却済みであり、現在この地位は同社の「ASHIATO」と統合された形でエン陣営に帰属する点に注意が必要だ。 ROXXにとってback checkは「勝ち筋ではあったが、Zキャリアとは顧客層(ホワイトカラー上位 vs ノンデスク)が真逆でシナジーが薄い」事業であり、ベストオーナーへ委ねる判断につながった。

組織・文化 — ROCK/BAND/SHOWと識学の「情熱×規律」

ROXXのカルチャーは、バンド由来のバリュー「ROCK / BAND / SHOW」を核とする。 これに行動指針「Tuning(チューニング)」を加えた「MVT(Mission / Value / Tuning)」を組織運営の最重要施策と位置づけ、 MVTカードを配布し代表自らカードを見ながら会話するなど、カルチャーの言語化と浸透に投資している。

  • ROCK(意思や信念): 世の中が良くなるために何が必要か想像する。最初は一人のアイデアでも、声をあげ形にする。
  • BAND(チームで戦う): 一人ではなし得ない大きな成果を出す。完璧な一人より、欠点を補い合う100人のチームが勝つ。
  • SHOW(仕事の質): どんな状況でも過去最高のパフォーマンスを出す。最高のパフォーマンスは自分の手でつくり出す。

情熱的なバリューの一方で、組織運営は極めてドライだ。2018年に「識学」を導入し、 組織図の曖昧さ(上司・部下の重複や不在)を解消、当時流行していた360度評価などを廃止して 「半期ごとに結果で評価する」明確な制度へ再設計した。 「結果を出す人にとって良い会社」を志向し、社員が「余計なことを考えなくてよくなった」ことで成長速度が上がったと識学事例で語られている。 HR領域の企業でありながら、自社では「曖昧さの排除・結果評価」という規律を徹底しているのが興味深い。

経営チームは、創業者・中嶋CEOを中心に外部の実力者を集めた布陣だ。

氏名 役職 経歴・担当
中嶋 汰朗 代表取締役 / CEO 1992年東京生まれ。青学在学中の2013年に創業。元バンドマン、Forbes 30 Under 30 Asia 2021選出
植木 大介 上級執行役員 COO / SVP of Business 事業統括
西村 宏登 上級執行役員 SVP of Corporate コーポレート統括
吉本 ジョージ 執行役員 CFO 米国公認会計士。三菱UFJ銀行→ラザード・フレール→スパイスコード共同創業を経て2023年入社
松本 宏太 執行役員 CTO オルトプラスを経て2017年入社の古参。技術組織を統括
城倉 和孝 執行役員 VPoE エイトレッド設立(CTO)、DMM.com CTO等を経て2024年入社
大輪 一史 執行役員 VPoNB(新規事業) パーソルキャリア→エス・エム・エスを経て2021年入社

戦略・展望 — ノンデスク×AIに全賭けする「所得底上げ」の挑戦

back check売却でZキャリア一本足となったROXXの戦略は明快だ。 「年収200万円を300万円にする転職プラットフォーム」というミッションのもと、 ①マス広告による「正社員を目指すならZキャリア」という第一想起の獲得、 ②AIスカウト・AI面接官による収益性の改善、 ③AI面接官の外販拡大(将来はハローワーク等の外部応募者へも対象を広げる構想)、 ④住まい・食・通信・クレジットカードといった「生活」領域への横展開、 という4本柱で成長を狙う。 中期目標として掲げた売上100億円の達成時期は、back check売却を受けてFY2027/9からFY2029/9へ変更された。

ROXXの物語は、HRスタートアップの王道とは少し異なる。 「とにかく一つの事業を磨き続ける」のではなく、「勝てないと判断した事業は潔く捨て、勝てる一点に全資源を寄せる」—— C2C人材紹介SCOUTERの撤退も、上場後のback check売却も、その一貫した行動原理の表れだ。 元バンドマンの創業者が掲げる「死ぬまでロックし続ける」という言葉は、 特定の曲(事業)に固執せず、新しいアルバムを出し続けるアーティストの姿勢そのものである。 日本の労働人口の3分の2を占めながら手薄だった「ノンデスク×低年収層」を、AIの力で正社員へと押し上げ、所得を底上げできるか—— ROXXの挑戦は、日本のHRTechにおける「もう一つの道」を示している。

理解度チェック

理解度チェック

問題 0 / 50%
Q1

株式会社ROXXの社名・主力事業の変遷を、古い順に並べ替えなさい。

矢印ボタンで正しい順序に並べ替えてください

1リファレンスチェック「back check」事業をエン・ジャパンへ約19.5億円で売却
2agent bankを統合・改称し「Zキャリア プラットフォーム」を始動
3社名を「株式会社ROXX」へ変更、リファレンスチェック「back check」を投入
4「株式会社RENO」として創業(新卒人材紹介事業からスタート)
5C2C人材紹介「SCOUTER」を立ち上げ、社名も「株式会社SCOUTER」へ変更

主要参考文献