半年で前提が3つ変わった

このブログでは2026年4月に、Voice AIエージェントの記事を5本続けて書いた。レイテンシの予算、パイプライン型とエンドツーエンド型、ターンテイキング、ゼロからの実装、フレームワーク比較の5本だ。 当時は「ユーザーが話し終えたことを検出して、それから返事をする」半二重(half-duplex)の設計が前提だった。

それから半年で、次の3つが変わった。

  • 全二重(full-duplex)がAPIで使えるようになった:聞きながら話せるモデルが、ChatGPTの機能から開発者向けのAPIになった
  • 「声」と「頭脳」を分けて組むようになった:会話を回すモデルと、考えたりツールを呼んだりするモデルを分け、裏で並行して動かす
  • 料金が分単位になった:トークン単価ではなく、通話1分あたりの価格で比べるのが普通になった

本記事では、2026年7月から10月までの主なリリースを並べ、この3つの変化を順に見ていく。

7月〜10月に何が出たか

GPT-Live発表

OpenAIが全二重の音声モデルを発表。まずChatGPTに搭載し、APIは後日とした

音声へのSynthID透かし

OpenAIの対応音声にSynthIDの透かしを追加し、検証ツールをAPIで公開

GPT-Live-1がAPIに

声の層は1分0.05ドル。同じ日にLiveKit Agents 1.8.1、翌日にPipecat 1.9.0が対応

Gemini 3.8 Live

GoogleがLive API向けの音声モデルをGAで公開。推論を深くしたExtended Thinking版も同時に出た

ElevenLabsの評価額が220億ドルに

3億ドルの従業員株式の買い取りで、2月の110億ドルから倍増

Nova 2.5 Sonic

AmazonがBedrockで提供開始(報道ベース)。非同期のツール呼び出しが目玉

Grok Voice 3.0

xAIがVoice Agent APIで公開。1分0.08ドル。ベンチマーク首位を主張

4月の記事を書いた時点で、APIから使える音声対音声(Speech-to-Speech)のモデルはOpenAIのgpt-realtime系がほぼ唯一の選択肢だった。 いまはOpenAI・Google・xAI・Amazonの4社が、エージェント向けの音声モデルをそれぞれ出している。

変化1:全二重がAPIで使えるようになった

GPT-Liveの記事を書いた8月の時点では、全二重はChatGPTの中だけの機能で、開発者が使えるのはgpt-realtime系だけだった。 9月10日、OpenAIはGPT-Live-1をAPIで公開した。

半二重のモデルは、VADなどで「相手が話し終えた」と判断してから返事を作る。 全二重のモデルは入力と出力の音声を同時に処理し、相手が話している最中でも、相づちを打つか、黙るか、話し始めるかを判断し続ける。 割り込まれたときの処理もモデルが自分で行う。4月のターンテイキングの記事で、アプリ側の工夫として紹介したことの多くを、モデルが引き受けるようになった。

OpenAIの発表では、API版の特徴として次のものが挙がっている。

  • 電話回線への対応(予約受付やカスタマーサポートなどの電話エージェント向け)
  • ASRの書き起こしと応答テキストを、モデルがそのまま出力する
  • ターン検出も備えており、発話の区切りを使う従来の設計とも組み合わせられる
  • キーワードの指定と、英数字(予約番号や型番など)の聞き取りの強化
  • 背景雑音への対処と、長い通話での文脈の保持

制約もある。カスタムボイスは営業経由でしか申し込めず、声の種類もまだ少ない。 GPT-Live-1を使ったOpenAIの企業向け製品Presenceは、OpenAIのエンジニアや提携するシステムインテグレーターが導入を支援する形で、自分で申し込んで使うことはできない。

フレームワークの対応が早かった

目立ったのは、OSSのフレームワークの対応の早さだ。 LiveKit Agentsは公開当日(9月10日)の1.8.1で、聞きながら話すモデル用の DuplexModel クラスを追加した。最初の実装がGPT-Liveだ。 リリースノートの例では、会話を回すGPT-Liveと、推論とツールを受け持つモデルを1つの設定で指定している。

# LiveKit Agents 1.8.1 のリリースノートより
session = AgentSession(
    llm=GPTLiveModel(
        voice="marin",
        # 推論とツール呼び出しを受け持つバックエンドのモデル(Responses API)
        responses_options={
            "model": "gpt-5.6-luna",
            "instructions": "Use tools when current information is required.",
        },
    ),
)

Pipecatは翌日(9月11日)の1.9.0で OpenAILiveLLMService を追加した。 推論の担当を2通りから選べる。OpenAIのResponses APIに任せる ResponsesDelegation と、Pipecatが扱える任意のLLMを裏に置く ClientDelegation だ。 後者を使えば、声はGPT-Live-1、推論はClaudeやGeminiという組み合わせもできる。

変化2:「声の層」と「頭脳の層」を分ける

この半年で一番大きな変化は、構成の考え方だ。 4月の時点では、音声エージェントの設計は「STT → LLM → TTSを直列につなぐパイプライン型」と「1つのモデルで音声から音声を作るエンドツーエンド型」のどちらかを選ぶ話だった。 いまの主流は、エンドツーエンドのモデルを会話を回すことだけに専念させ、考える仕事は別のモデルに渡す構成だ。

flowchart LR
    U["ユーザー<br/>(電話・ブラウザ)"] <-->|"音声を<br/>双方向に流し続ける"| V["声の層<br/>全二重の音声モデル"]
    V -->|"調べて・予約して"| B["頭脳の層<br/>推論モデル"]
    B --> T["ツール<br/>(DB・社内API・検索)"]
    T --> B
    B -->|"結果"| V
声の層は会話を止めずに相づちや場つなぎを続け、頭脳の層が裏で推論とツール呼び出しを進める

たとえばユーザーが「来週火曜の予約を水曜に変えたい」と言ったとする。 声の層は「確認しますね」と返し、そのまま会話を続ける。その間に頭脳の層が予約システムのAPIを呼び、空き枠を調べ、結果を声の層に戻す。 ユーザーから見ると、無音で待たされる時間が消える。

各社とも、名前は違うが同じ方向を向いている。

モデル裏で並行して動かす仕組み
GPT-Live-1(OpenAI)推論とツールをバックエンドのモデルに委譲する。OpenAIの例では、予約や注文状況の確認のような件数の多い仕事にLuna、複雑な推論にAstraを使う。他社のモデルや自前のサービスも置ける
Gemini 3.8 Live(Google)非同期の関数呼び出し。音声を流したままAPIやツールを呼ぶ。Extended Thinking版は、裏で多段階の推論もする
Nova 2.5 Sonic(Amazon)非同期のツール呼び出しが目玉とされる(報道ベース)
Grok Voice 3.0(xAI)ツール呼び出しに対応。Starlinkの例では、本人確認、機器のトラブル対応、返金処理、機器の発送までを通話中に行う

主要モデルの比較

2026年10月15日時点で、エージェント向けに提供されている主な音声モデルを並べる。 価格は各社の発表や報道によるもので、計算方法がそろっていない点に注意してほしい。

GPT-Live-1Gemini 3.8 LiveGrok Voice 3.0Nova 2.5 Sonic
提供元OpenAIGooglexAIAmazon
API提供2026年9月10日2026年9月15日(GA)2026年10月14日2026年10月5日(報道)
会話の方式全二重音声対音声。非同期の関数呼び出し音声対音声。相づち・割り込みに対応音声対音声
料金声の層が1分0.05ドル。推論モデルは別料金入力1分0.005ドル、出力1分0.018ドル(Googleの試算)1分0.08ドルNova 2 Sonicと同じとされる
言語公表なし。今後拡大97以上公表なし7言語(報道)
提供経路OpenAI APIGemini API、Vertex AIxAI Voice Agent APIAmazon Bedrock(東京リージョンを含む)

OpenAIのgpt-realtime系(gpt-realtime-2、2.1)も引き続き提供されている。 ターン制の設計で十分な用途や、すでにRealtime APIで組んだシステムを動かしている場合は、移行を急ぐ理由は薄い。 GoogleのGemini 2.5 Flash Native Audioは、Google Cloudのドキュメント上で2026年12月13日に提供終了の予定だ。使っている場合は3.8 Liveへの移行が必要になる。

料金は「1分いくら」で比べる

比較の単位が分になったのは、音声のトークン数が利用者から見えにくいからだろう。電話の運用者にとっては、通話1分あたりの費用のほうが見積もりやすい。 ただ、同じ「1分いくら」でも中身が違う。

  • GPT-Live-1:0.05ドルは声の層だけの価格だ。裏で動く推論モデル、ツール、その他のサービスの費用は別にかかる。重い推論モデルを裏に置くと、総額は大きく変わる
  • Grok Voice 3.0:1分0.08ドル(1時間4.80ドル)で、2.0から据え置き
  • Gemini 3.8 Live:入力と出力で単価が違う。出力の1分0.018ドルは、100万トークンあたり12ドルから換算したGoogleの試算値だ

5分の通話で概算してみる。GPT-Live-1は声の層だけで0.25ドルに、推論モデルの費用が加わる。Grok Voice 3.0は0.40ドルだ。 Gemini 3.8 Liveは、5分ぶんの入力と、エージェントが半分の時間話したと仮定した出力2.5分ぶんで、0.025+0.045=約0.07ドルになる。 ただしこれは音声の単価だけの比較で、ツール呼び出しの回数や、裏の推論の重さで逆転しうる。実際の通話ログで試算したほうが確実だ。

ベンチマークは誰が出した数字かを見る

GoogleもxAIも「首位」を名乗っているが、そのまま受け取らないほうがいい。具体例を2つ挙げる。

1つめは、首位の入れ替わりの速さだ。9月15日、GoogleはGemini 3.8 Live Extended ThinkingがArtificial AnalysisのSpeech-to-Speechリーダーボードで1位だと発表した。 その1か月後の10月14日、xAIは同じ指標でGrok Voice 3.0が86.9で1位だと発表した。下のグラフはxAIの発表に載った数字だ。

Artificial Analysis Speech-to-Speech Index(xAIの発表より、高いほど良い)

上位4モデルの差は5.6ポイントしかない。この程度の差は、次のモデルが出れば簡単に入れ替わる。

2つめは、同じモデルでも発表元によって数字が違うことだ。 OpenAIはGPT-Live-1のTau3(Voice)の課題達成率を86.2%と発表した。xAIの比較表では、tau-VoiceでのGPT-Live-1は74.5%になっている。 ベンチマークの版、推論の設定(xAIの表では「Astra、Medium」と注記がある)、測った環境が違えば、数字は10ポイント以上動く。

パイプライン型は終わったのか

全二重モデルが出そろっても、STT・LLM・TTSを自分でつなぐパイプライン型が消えたわけではない。むしろ部品ごとの進化は続いている。

  • GoogleはGemini 3.8 Liveと並べて、STTのGemini 3.5 Transcribeを紹介した。ストリーミングでの平均単語誤り率(WER)は4.0%で、最大1,000語の専門用語を登録できる
  • STTとTTSを部品として提供するElevenLabsは、9月末に評価額が220億ドルに達した。2月の110億ドルからの倍増で、部品としての音声技術にも資金が集まり続けている

パイプライン型が残る理由ははっきりしている。各段のテキストを記録し、検査し、差し替えられることだ。 発言内容を必ずログに残したい、特定の言い回しを禁止したい、日本語に強いSTTやTTSを選びたい、といった要件があるなら、今もパイプライン型が向いている。 全二重モデルが「自然な会話」を、パイプライン型が「制御のしやすさ」を受け持つ、という役割分担は4月から変わっていない。

まだ解けていないこと

TechCrunchは10月11日に、「Voice AIはまだChatGPTのような転換点を迎えていない」という業界幹部の見方を紹介した。 コールセンター向けのPolyAIのCTO、Shawn Wenは、全二重までは来たが、次の壁は推論の速さだと述べている。 ほかに挙がった課題は次の3つだ。

  • 音声認識の誤り:大事なキーワードを聞き落とすと、文脈がずれ、その後のツール呼び出しまで間違う
  • 信頼は少しずつ積み上がる:声が自然なだけでは足りず、最初の数回のやり取りで問題を解決できるかで、利用者が任せるかどうかが決まる
  • 開示:録音していること、相手がAIであることを、相手に伝える必要がある

開示については、技術側の対応も始まっている。OpenAIは7月に、対応する音声にSynthIDの透かしを入れ、透かしを確かめる検証ツールをAPIで公開した。 LiveKit Agentsでも、音声モデルPhonicのプラグインに透かしを有効にする設定が追加された。 ただし透かしは後から検証するための仕組みで、通話の冒頭で「AIが対応します」と伝える義務を代わりに果たしてくれるわけではない。

いま選ぶならどう考えるか

  • 新しく作る、自然な会話が最優先:全二重モデル(GPT-Live-1など)を声の層に置き、推論とツールを別のモデルに任せる構成から始める。LiveKitかPipecatを使えば、後からモデルを差し替えやすい
  • 多言語対応・コスト重視:Gemini 3.8 Liveが候補になる。97以上の言語に対応し、音声の単価も低い
  • AWSの中で完結させたい:Nova 2.5 Sonic。東京リージョンで使える
  • ログ・言い回しの制御・日本語の音声品質が最優先:パイプライン型を続ける。STTとTTSは部品単位で選び直す
  • どれを選ぶ場合も:評価用の録音とシナリオを先に用意し、モデルが変わったら同じ条件で回し直せるようにしておく

まとめ

  • 2026年9〜10月に、GPT-Live-1、Gemini 3.8 Live、Nova 2.5 Sonic、Grok Voice 3.0が相次いで出た。全二重はChatGPTの中の機能から、APIで使える部品になった
  • 設計の主流は、全二重の音声モデルを会話に専念させ、推論とツールを裏の別モデルに任せる構成に移った。LiveKitとPipecatは公開の当日〜翌日に対応した
  • 料金は1分単位で比べるようになったが、GPT-Live-1の0.05ドルは声の層だけの価格で、推論モデルの費用は別にかかる
  • ベンチマークの首位は1か月で入れ替わり、同じモデルでも発表元で数字が変わる。最後は自社の通話の録音で比べる
  • 音声認識の誤り、推論の遅さ、AIであることの開示は未解決で、制御を重視する用途ではパイプライン型が今も選ばれている

理解度チェック

問題 0 / 50%
Q1

GPT-Live-1のAPI料金「1分0.05ドル」が含む範囲として正しいものはどれか。

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