「同点」の中身を見に行く

2026年8月12日、Grok 4.6 が公開されました。 発表で最初に目に入るのは、Artificial Analysis Intelligence Index(以下 AAII)の 61 という数字です。 Grok 4.5 High の 56 から5ポイント上がり、GPT-5.6 Sol Max と同点。 「フロンティアに並んだ」という見出しが並びました。

ただ、この総合スコアは複数ベンチマークの合成値です。 内訳を開くと、Grok 4.6 は得意なところで大きく勝ち、不得意なところで明確に負けている。 平均すると同点になる、というタイプの並び方をしています。 どちらの側に自分のワークロードが乗っているかで、体感はかなり変わります。

そしてもうひとつ、ベンチマークより先に効いてくるものがあります。500Kトークンのコンテキストと、その手前の200Kに置かれた料金所です。 エージェントを長く回すつもりなら、精度より先にここで殴られます。

本記事では、Grok 4.6 を「ベンチマークの偏り」「200Kの課金崖」「xhigh という新しい段」「キャッシュを効かせる作法」の4点で、API を叩く側の目線から整理します。

ここに至るまで

Grok 4.6 の知識カットオフ

モデルが学習した世界はここで止まる。以降の情報は Web Search / X Search ツール経由で取りに行く前提。

SpaceX による xAI 買収がクローズ

非公開企業同士の統合としては最大級。この時点ではブランド上の変化はまだ表に出ていない。

xAI → SpaceXAI へリブランド

X アカウント名と新ロゴを公開。プロダクト名(Grok)と API エンドポイントは維持。

Grok 4.6 公開

API(grok-4.6)、Cursor 全プラン、Grok Build で同時提供。OpenRouter・Vercel・Cloudflare 経由のルーティングにも対応。初週は利用枠2倍。

発表によれば、Grok 4.6 はベースモデルを刷新したわけではなく、ポストトレーニング側のアップグレードとされています。 継続事前学習の延長、教師ありファインチューニングの再生成、そしてエージェント環境での強化学習。 「4.5 の土台に、長い手順を最後まで走り切らせるための訓練を上積みした」という位置づけです。 実際、公式が真っ先に挙げる強化点も 自己検証(self-verification)——途中で自分の出力をテストして確かめる挙動——でした。

ベンチマークは「割れている」

AAII 61 という総合点の内訳を、Grok 4.5 からの伸びと合わせて並べるとこうなります。

ベンチマークGrok 4.6Grok 4.5 からの差位置づけ
AA Intelligence Index61+5(56 → 61)GPT-5.6 Sol Max と同点
GDPVal-AA v21753 Elo+227掲載モデル中トップ
AA-Briefcase1577+264掲載モデル中トップ
CursorBench v3.269.9%実コードベース編集で高水準
DeepSWE v1.165.9%+11.9ptGPT-5.6 Sol Max / Fable 5 Max に劣る
Terminal-Bench v3.026%+10.3pt同上。絶対値も低い
FrontierCode v1.161.3%
APEX-Agents57.5%

伸び幅の大きさは GDPVal-AA v2 の +227 EloAA-Briefcase の +264 に集中しています。 どちらも「コードを書く」より「調べて、まとめて、判断する」に寄ったベンチマークです。 資料を読み込んで論点を整理する、複数ソースを突き合わせて結論を出す——このあたりが、今回いちばん動いた領域だと読めます。

一方、Terminal-Bench v3.0 の 26% は伸びていてなお低い。 これは実際のターミナル環境で長い手順を自律実行させる課題で、Grok 4.6 が明示的にターゲットにしたはずの「長時間走るエージェント」に最も近いベンチマークです。 そこで首位を取れていないことは、素直に読んでおいたほうがいいと思います。

500Kの手前にある「200Kの料金所」

ここからが、ベンチマークより先に効いてくる話です。 Grok 4.6 のコンテキストは 500,000 トークン。ただし価格表は2段構えになっています。

帯域入力キャッシュ入力出力
プロンプト < 200K トークン$2.00 / 1M$0.50 / 1M$6.00 / 1M
プロンプト ≥ 200K トークン$4.00 / 1M$1.00 / 1M$12.00 / 1M

問題は倍率そのものではなく、適用範囲です。ドキュメントの原文はこう書いています。

requests whose prompt reaches the listed token threshold are billed at the higher rate for all tokens in the request.

超過分だけが高くなるのではありません。200Kに達したリクエストは、その全トークンが2倍単価になります。 しかも 2x は入力・出力・キャッシュ・推論トークンのすべてに掛かります。

flowchart TD
  A["リクエスト組み立て<br/>システム+履歴+ツール結果"] --> B{"プロンプト合計が<br/>200K トークン以上か"}
  B -->|"いいえ"| C["入力 $2 / 出力 $6<br/>キャッシュ $0.5"]
  B -->|"はい"| D["入力 $4 / 出力 $12<br/>キャッシュ $1"]
  D --> E["超過分ではなく<br/>リクエスト全体に適用"]
閾値は「超えた分」ではなくリクエスト単位で判定される

1トークンの差が2.2倍になる

具体的な数字にすると、崖の形がはっきりします。 入力190K・出力5Kのリクエストと、入力210K・出力5Kのリクエストを比べます。

ケース入力コスト出力コスト合計
入力 190K / 出力 5K190,000 × $2/1M = $0.3805,000 × $6/1M = $0.030$0.410
入力 210K / 出力 5K210,000 × $4/1M = $0.8405,000 × $12/1M = $0.060$0.900

入力トークンは約10%しか増えていないのに、コストは約2.2倍。 そして厄介なのは、この閾値を踏むかどうかが自分で制御しづらいことです。 エージェントループでは、ツールの戻り値がプロンプトに積み上がっていきます。 検索結果が想定より長かった、ファイルが大きかった、テストログが冗長だった——それだけで200Kを踏み越え、そのターン以降のリクエストが全部2倍帯に入る。

なお、そもそも本当に長大なコンテキストを一発で流し込みたいなら、同じ SpaceXAI の grok-4.31Mトークン・$1.25/$2.50 という別の答えを持っています。 「500K入るから 4.6 で全部やる」より、長さが要るタスクは 4.3、賢さが要るタスクは 4.6 と分ける方が、ほとんどの場合は安く済みます。

xhigh という新しい段

Grok 4.6 では reasoning_effortxhigh が追加されました。 段は low / medium / high(デフォルト)/ xhigh の4つで、xhigh は grok-4.6 のみ対応です。

import os
from openai import OpenAI  # xAI は OpenAI 互換エンドポイントを提供している

client = OpenAI(
    api_key=os.environ["XAI_API_KEY"],
    base_url="https://api.x.ai/v1",
)

resp = client.chat.completions.create(
    model="grok-4.6",
    messages=[
        {"role": "user", "content": "この認証フローの設計に脆弱性がないか洗い出して"},
    ],
    reasoning_effort="xhigh",  # low / medium / high(default) / xhigh
)

print(resp.choices[0].message.content)

xhigh は名前のとおり推論トークンを最も多く使う設定です。 ここで先ほどの課金の話が効いてきます。推論トークンも 2x 倍率の対象なので、xhigh × 200K超えの組み合わせは、コストの伸び方が二重になります。 難易度が高くコンテキストが短いタスク(設計レビュー、アルゴリズム設計、証明系)に xhigh を当て、長い文脈を舐めるタスクは high 以下に落とす、という配分が現実的です。

キャッシュを「効かせる」にはヘッダが要る

Grok 4.6 のキャッシュ入力は $0.50/1M。通常入力の $2.00 に対して4分の1です。 同じシステムプロンプトと履歴を何度も送り直すエージェントループでは、ここが効くかどうかで請求が桁で変わります。

ところが、キャッシュは黙っていても安定して効きません。 公式ドキュメントが強く推奨しているのが、会話を同じサーバーにルーティングさせるための識別子です。

API指定するもの種別
Responses APIprompt_cache_keyリクエストボディのフィールド
Chat Completionsx-grok-conv-idHTTP ヘッダ
# Chat Completions の場合: 会話単位で固定のIDをヘッダに載せる
conversation_id = "sess-7f3a9c21"  # 会話が続く限り同じ値を使い回す

resp = client.chat.completions.create(
    model="grok-4.6",
    messages=messages,
    reasoning_effort="high",
    extra_headers={"x-grok-conv-id": conversation_id},
)

これを付けると、その会話のリクエストが同じサーバーへ振り分けられ、キャッシュヒットが安定します。 逆に付けないと、キャッシュが冷えたサーバーに当たってフルの入力価格を払うケースが出てきます。 リトライやフォールバック処理でIDを付け忘れる、あるいはターンごとに新しいIDを振ってしまう、といった実装ミスが素直に請求に出るので、ここは会話オブジェクトの生成時にIDを確定させてしまうのが安全です。

4.5 より少し高くなっている

細かい点ですが、キャッシュ入力の単価は Grok 4.5 の $0.30/1M から 4.6 では $0.50/1M に上がっています。 入力・出力の単価($2 / $6)は据え置きなので、キャッシュ比率が非常に高いワークロードだけは 4.5 のほうが安くなるという逆転が起こり得ます。 移行前後でコストを比較するときは、通常入力ではなくキャッシュヒット率を見てください。

サーバーサイドツールは opt-in

Grok 4.6 は function calling と structured outputs に加えて、xAI 側で実行されるサーバーサイドツールを持っています。 Web Search、X Search、Code Execution、Collections。

ここでよく踏まれるのが、コンシューマー向けの Grok アプリではこれらが最初から有効なのに、APIでは明示的に渡さない限り無効という非対称です。 「アプリの Grok は最新情報を答えたのに、APIだと古いことを言う」の正体はたいていこれで、モデルの知識カットオフ(2026年2月1日)がそのまま出ています。

項目内容
モデルIDgrok-4.6
コンテキスト500,000 トークン
入出力テキスト+画像 入力 / テキスト 出力
知識カットオフ2026年2月1日
Function calling / Structured outputs対応
サーバーサイドツールWeb Search / X Search / Code Execution / Collections(opt-in)
レート制限150 req/s、50,000,000 tokens/min
リージョンus-east-1 / us-west-2
高速版提供あり(単価2倍)。モデルIDは発表時点で未公表

結局どう使い分けるか

ここまでを踏まえた、実務での置き所です。

やりたいこと推奨理由
資料を読み込んで論点整理・レポート生成Grok 4.6(high)GDPVal-AA v2 / AA-Briefcase で最も伸びた領域
IDE 上でのコード編集・リファクタGrok 4.6(Cursor で全プラン利用可)CursorBench 69.9% と実編集タスクに強い
CI 連携の自走型コーディングエージェントDeepSWE / Terminal-Bench 上位モデルと要比較Terminal-Bench 26% は同世代比で弱い
300K以上の文脈を一発で流し込むgrok-4.3(1M / $1.25・$2.50)4.6 は200K超で全トークン2倍単価
難所だけ深く考えさせるGrok 4.6(xhigh)xhigh は grok-4.6 のみ。ただし短文脈に限定して使う

総合すると、Grok 4.6 は「フロンティアに並んだモデル」であると同時に、コスト設計を要求してくるモデルです。 500Kという数字は魅力的に見えますが、実際に安全に使える帯域は実質200Kまでだと考えて設計したほうが、後から請求書を見て驚かずに済みます。 そしてその制約さえ飲めば、知識労働寄りのタスクでは今もっとも費用対効果の高い選択肢のひとつです。

参考

理解度チェック

問題 0 / 50%
Q1

Grok 4.6 のコンテキストは500Kトークンだが、プロンプトが ____ トークンに達すると、そのリクエストの全トークンが2倍単価で課金される。空欄に入る数字を答えてください(例: 100K)。