企業概要

Sakana AI(サカナAI、Sakana AI株式会社)は、「自然に学ぶ(Nature-Inspired Intelligence)」を掲げ、 生物の進化・群知能からヒントを得た新世代の基盤モデルを開発する、東京拠点のAIラボ型スタートアップである。 2023年7月、元Google Brain東京チーム統括の David Ha、 2017年のTransformer論文「Attention Is All You Need」共著者である Llion Jones、 元外務省外交官でメルカリ・Stability AIを経た 伊藤錬(Ren Ito)の3名が共同創業した。 社名「Sakana」は日本語の「魚」に由来し、 魚の群れが単純なルールの積み重ねで一体的な知的振る舞いを生み出す collective intelligence(集合知) の比喩を会社哲学の中核に据えている。

Sakana AIの核となるのは「大規模事前学習の軍拡レースに参加しない」という戦略判断だ。 OpenAI・Anthropic・Googleが数百億ドルを投じてモデル規模を競う一方で、Sakana AIは既存のOSSモデル群を進化的アルゴリズムで交配・合成することで、 ごく短期間・低コストで日本語・金融・防衛に特化した専用モデルを生成する。 NVIDIAのJensen Huangが「Sovereign AI(AI主権)」文脈で日本の象徴企業として挙げたのがSakana AIで、 創業14ヶ月でユニコーン化、27ヶ月でポストマネー4,320億円と、日本のスタートアップ史を塗り替える速度で駆け抜けている。

創業ストーリー・沿革

Sakana AIのルーツは、2022年末のグローバルAI地殻変動にある。 ChatGPTが公開され、生成AIのブレイクスルーが一気に表面化した時期、 Google Brain東京チームのリサーチリードだったDavid HaはGoogleを退職し、 英ユニコーン Stability AI(Stable Diffusion開発元)のHead of Researchに転じた。 同時期、元外交官でメルカリUS事業を統括していた伊藤錬もStability AIのCOOに就任し、 2人は「日本発で、自然界からインスパイアされた独自のAI基盤モデルを作る」構想を温め始める。 2023年7月7日、David Haと伊藤錬、そして2017年のTransformer論文共著者として世界的に知られるLlion Jones(同年8月にGoogle退職)が合流し、東京でSakana AIを設立した。

設立直後から注目を集めた理由は3つある。第一に、Llion Jonesが「現代のLLMの源流」そのものである Transformer論文の共著者であり、しかも「Transformer」という名前の命名者だったこと。 第二に、David HaがNeuroevolution・World Models・Generative Modelsで著名な研究者であり、 2025年にTIME 100 Most Influential People in AIに選出されたこと。 第三に、伊藤錬が外務省・メルカリ・Stability AIで培った日米官民ネットワークで、 日本政府・メガバンク・米国VCを一気に繋げられたこと。この「研究ブランド × グローバルVC × 日本Sovereign AI政策」の三位一体が、異例の速度で資本と顧客を呼び込んだ。

Sakana AI株式会社 設立

David Ha(CEO)、Llion Jones(CTO)、伊藤錬(COO)の3名が東京で共同創業。法人番号6010401175698、本社は麻布台ヒルズ

Llion JonesがGoogleを退職してCTO就任

Transformer論文の共著者がスタートアップへ。CNBC等が大きく報道

Seedラウンド $30M調達

Lux Capital・Khosla Ventures主導。NTT・KDDI・Sony Ventures、Jeff Dean、Clement Delangue(HuggingFace)、Alexandr Wang(Scale AI)らエンジェル参加

Evolutionary Model Merge 発表

進化的アルゴリズムで既存モデルを合成する手法。後にNature Machine Intelligence掲載

The AI Scientist v1 公開

エンドツーエンドでアイデア→実験→執筆→査読を自律実行するフレームワーク。GitHub 13.2k stars

Series A 約$200M調達、ユニコーン化

NEA主導、NVIDIA・MUFG・SMBC・みずほ・伊藤忠・KDDI・野村ら参加。評価額$1.5B、創業14ヶ月で日本最速ユニコーン達成

Transformer² / TinySwallow 発表

推論時に重み行列のSVD成分のみを動的調整するself-adaptive LLM。LoRA超え

防衛イノベーション日米コンペ受賞

日米ATLA×DIU主催、バイオ防衛・偽情報対策の2分野で日本企業唯一の受賞

AI Scientist-v2 がICLRワークショップ査読通過

AI生成論文が人間査読を通過した初の公式事例

MUFG包括パートナーシップ締結

融資稟議書・信用承認書の自動生成。伊藤COOがMUFG AIアドバイザー兼務。多年契約で約50億円規模との報道

Continuous Thought Machines(CTM)発表

時間軸を内部表現に組み込む新アーキテクチャ。NeurIPS 2025 Spotlight採択

大和証券と資産運用コンサルAI提携

金融領域の縦深拡大

Series B $200M/約320億円調達

MUFG主導、Khosla・NEA・Lux・In-Q-Tel(CIA系VC)・Macquarie参加。Post-money評価額4,320億円($2.7B)で日本の非上場歴代最高

AtCoder Heuristic Contest 優勝(ALE-Bench関連)

競技プログラミング系ベンチマークで実力を証明

Sakana Chat / Namazu シリーズ公開

地域特化大規模オープン基盤モデルを搭載した対話サービス

AI Scientist Nature掲載

自律AI研究がトップジャーナルで査読通過

総務省SNS偽情報対策システム完成発表

政府プロジェクトで偽情報可視化システムを実装

防衛装備庁ATLA 委託研究開始

陸海空・ドローン統合の観測・情報融合・C2(指揮統制)システム高度化を受託

Sakana Marlin Beta 公開

「Ultra Deep Research」を搭載したビジネスインテリジェンスアシスタント

3人の共同創業者

Sakana AIを語る上で、3人の共同創業者のバックグラウンドは欠かせない。 それぞれが異なる世界(Big Tech研究所/ユニコーン経営/日本の官民)のトップを経験しており、 その組み合わせがSakana AIの「研究・グローバル・日本官民」三位一体戦略を可能にしている。

共同創業者役職前職強み・役割
David HaCEO・共同創業者Goldman Sachs MD(デリバティブ/マクロ)→ Google Brain Tokyo研究リード(Neuroevolution, World Models)→ Stability AI Head of ResearchUBCコンピュータサイエンス博士。TIME 100 AI 2025選出。「規模より自然模倣」の研究哲学を牽引、日本独自AI路線の思想的リーダー
Llion JonesCTO・共同創業者Google Research 8年、Transformer論文「Attention Is All You Need」(2017)の8共著者の1人で「Transformer」の命名者University of Birmingham情報科学卒。2023年8月Google退職しSakanaへ。VentureBeatで「Transformerにうんざりしている」と発言、CTMなどポストTransformer研究を牽引
伊藤錬(Ren Ito)COO・共同創業者外務省2001年入省(総理通訳官・日米安保・日EU EPA交渉)→ 世界銀行 → メルカリ執行役員(US展開/政府渉外)→ Stability AI COO東大法学部・NYUロースクール修了、NY州弁護士。東京都AI戦略会議委員、MUFG AIアドバイザー。日本官民・大企業・米中欧規制対応のハブ役

3人とも「日本在住」で「日本で勝つことが世界で勝つこと」という信念を共有している点が重要だ。 David HaはGoogle Brain Tokyo時代から10年以上を日本で過ごしており、日経・Bloomberg・Japan Timesで 「日本は米中に追従せず独自のAI路線を取るべき」「日本文化・言語に最適化された基盤モデルを作る」と繰り返し発信。 Llion Jonesは技術的にTransformer以後のアーキテクチャ探索を牽引し、伊藤錬は日本官庁・金融・防衛への入口を開く。「世界級の研究ブランド」と「日本市場へのアクセス」の両輪を1社に同居させたのが、Sakana AIの最大の構造的優位である。

ビジネスモデル

Sakana AIは純粋なB2B AIラボであり、OpenAI型の広く浅いコンシューマAPI戦略を意図的に避けている。 収益モデルは(1)エンタープライズ包括パートナーシップ、(2)政府・防衛受託、(3)エンタープライズライセンス、(4)研究成果商用化の4本柱で、 いずれも「日本語・日本規制・日本文化に最適化された軽量モデル」という差別化軸に沿う。 出資者の顔ぶれ(3メガバンク・NTT・KDDI・Sony・伊藤忠・NEC・富士通・野村・東京海上等)と顧客パイプラインが一体化している点も独自だ。

graph TD
    subgraph Research[研究レイヤー]
      R1[Evolutionary Model Merge<br/>進化的モデルマージ]
      R2[AI Scientist v1/v2<br/>自律研究エージェント]
      R3[Transformer² / CTM<br/>次世代アーキテクチャ]
    end
    subgraph Models[基盤モデルレイヤー]
      M1[Namazu シリーズ<br/>日本特化オープン基盤モデル]
      M2[EvoLLM-JP / EvoVLM-JP<br/>進化的マージ生成モデル]
      M3[TinySwallow<br/>軽量日本語モデル]
    end
    subgraph Products[プロダクトレイヤー]
      P1[Sakana Chat<br/>対話サービス]
      P2[Sakana Marlin<br/>Ultra Deep Research]
      P3[ドメイン特化<br/>エンタープライズ実装]
    end
    subgraph Customers[顧客レイヤー]
      C1[金融: MUFG / 大和証券 / 野村]
      C2[政府・防衛: ATLA / 総務省]
      C3[産業: 製造・通信・商社]
      C4[米CIA系: In-Q-Tel]
    end
    R1 --> M1
    R1 --> M2
    R2 --> P2
    R3 --> M1
    M1 --> P1
    M1 --> P3
    M2 --> P3
    M3 --> P3
    P1 --> C1
    P2 --> C1
    P3 --> C1
    P3 --> C2
    P3 --> C3
    C4 -.戦略投資.-> Products
    style R1 fill:#8b5cf6,color:#fff
    style R2 fill:#8b5cf6,color:#fff
    style M1 fill:#f97316,color:#fff
    style P2 fill:#3b82f6,color:#fff
    style C2 fill:#ec4899,color:#fff
Sakana AIの4レイヤー・バリューチェーン。研究成果を進化的マージで軽量モデル化し、金融・政府・防衛向けに実装する。出資者と顧客がほぼ一致する「官民連合型」の構造が特徴

収益源を整理すると以下のとおり。価格体系は非公開だが、 業界動向から「年間契約型の包括パートナーシップ + 実装コンサル + モデルライセンス」のハイブリッドと見られる。 進化的モデルマージによる「数日〜数週間で専用モデル生成」という低コスト構造が価格優位性の源泉だ。

収益モデル性質代表案件特徴
エンタープライズ包括パートナーシップストック+サービスMUFG(融資稟議書自動化、多年契約)、大和証券(資産運用AI)包括契約+共同開発+ライセンス。既にARR貢献大
政府・防衛受託プロジェクト型防衛装備庁ATLA委託研究、総務省SNS偽情報対策、経産省GENIACSovereign AI戦略の中核。In-Q-Tel出資で日米安保ライン
エンタープライズライセンスストック金融業界向け日本語特化モデル、EvoLLM-JP系商用版オンプレ・セキュアデプロイで規制産業の需要を捕捉
研究成果の商用化SaaS(計画)AI Scientist Lab-as-a-Service、Sakana Marlin(Ultra Deep Research)2026年4月Marlin Beta公開、製薬/R&D向け展開を計画
コンシューマ対話サービスフリーミアムSakana Chat(2026/3公開、Namazu搭載)ブランド構築・ユーザーデータ収集が主目的

主要研究成果とプロダクト

Sakana AIの知名度を世界的に押し上げたのは、矢継ぎ早に発表される「自然にインスパイアされた研究成果」だ。 代表格の Evolutionary Model Merge(進化的モデルマージ)は、既存のOSSモデルをパラメータ空間(PS)データフロー空間(DFS)の両方で進化的に最適化し、 追加学習なしで日本語×数学を両立する7BモデルやVLMを生成。この手法で生まれたEvoLLM-JP・EvoVLM-JPは 2024年当時の7B級日本語ベンチでSOTAを記録し、論文はAI系では異例の Nature Machine Intelligenceに採択された。

研究成果・プロダクト領域概要発表時期
Evolutionary Model Merge基盤モデル技術進化的アルゴリズムで既存モデルを交配。追加学習なしで日本語×数学モデル等を生成。Nature Machine Intelligence掲載2024年3月(arXiv:2403.13187)
EvoLLM-JP / EvoVLM-JP日本語モデル進化的マージで生成された7B日本語LLM/VLM。HuggingFace公開2024年3月〜
DiscoPOP最適化アルゴリズム発見LLMに選好最適化アルゴリズムを自動発見させる。logistic/exponential lossをブレンド2024年6月(arXiv:2406.08414)
The AI Scientist v1自律研究AIアイデア生成→実験→執筆→査読をエンドツーエンドで実行。GitHub 13.2k stars2024年8月
CycleQDエージェント進化Quality Diversity+model mergingで8B級LLMエージェント群を進化2024年11月
Transformer² (Squared)推論時自己適応SVD成分のみを動的調整するself-adaptive LLM。LoRA超えの性能・少パラメータ2025年1月(arXiv:2501.06252)
Continuous Thought Machines (CTM)新アーキテクチャニューロン時系列重み+神経同期を潜在表現に。ImageNet-1K 72.47% top-1。NeurIPS 2025 Spotlight2025年5月(arXiv:2505.05522)
Text-to-LoRAアダプタ即時生成タスク記述テキストからLoRAアダプタをハイパーネットで即時生成2025年6月
AI Scientist-v2 / v3自律研究AIBest-First Tree Search+VLMフィードバック+並列実験。ICLR 2025ワークショップ査読通過、v3が2026年3月Nature掲載2025年4月〜2026年3月
AB-MCTS / ShinkaEvolve推論時スケーリング集合知による推論時探索、オープンエンド進化プログラム合成2025年中
ALE-Benchベンチマーク競技プログラミング系ベンチ。AtCoder Heuristic Contest 2026/1優勝2025〜2026年
Namazu シリーズ日本特化基盤モデル地域特化の大規模オープン基盤モデル、Sakana Chatに統合2026年3月
Sakana Chat対話プロダクトNamazuを搭載した対話サービス。無料公開で日本市場のブランド構築2026年3月
Sakana Marlin BetaビジネスAI「Ultra Deep Research」を搭載したエンタープライズリサーチアシスタント2026年4月

財務・資金調達の推移

Sakana AIの資金調達は「創業14ヶ月でユニコーン」「27ヶ月でポストマネー4,320億円」という 日本スタートアップ史上でも異例の速度で進行した。Series B(2025年11月)の公式発表値では、 単独ラウンド$200M/約320億円、post-money valuation $2.7B/約4,320億円、累計調達額$412M/約660億円。 これはPreferred Networks・SmartNews・SmartHR等を抜き、日本の非上場スタートアップ歴代最高評価額となった (出典: sakana.ai/series-b/、TechCrunch 2025/11/17)。

Sakana AI 資金調達額とポストマネー評価額の推移(百万USドル、公式発表ベース)

ラウンド発表日調達額評価額リード投資家主要参加者
Seed2024/1/16$30M非公開Lux Capital、Khosla VenturesNTT、KDDI、Sony Ventures、Jeff Dean、Clement Delangue、Alexandr Wang
Series A2024/9/4約$200Mpost-money $1.5BNEA(主導)、Khosla、LuxNVIDIA、MUFG、SMBC、みずほ、NEC、SBI、第一生命、伊藤忠、KDDI、富士通、野村、ANA、東京海上、Translink、500 Global
Series B2025/11/17$200M/約320億円post-money $2.7B/約4,320億円MUFG(主導)、Khosla VenturesNEA、Lux、Factorial、Macquarie、Fundomo、Mouro Capital、Geodesic、Ora Global、MPower Partners、四国電力STNet、In-Q-Tel(米CIA系VC)

Series Bで特筆すべきはIn-Q-Telの資本参加だ。In-Q-Telは米CIA系VCで、 国家安全保障関連技術への戦略投資を担う組織。Sakana AIが防衛装備庁ATLAから委託研究を受けている流れと合わせ、日米安全保障AIラインの結節点に自社を位置付けた明確なサインと読める。 MUFGが主導リードしたのも、融資稟議書自動化の共同開発(2025年5月開始)からARRを生み始めた顧客であり、出資者=顧客という日本型官民連合の典型例となっている。 累計調達$412M/約660億円は、Preferred Networksの累計300億円規模を上回り、AI単独カテゴリでは圧倒的な資金厚を確保している。

市場環境・競合ポジショニング

Sakana AIが属するのは基盤モデル/LLM市場で、とくにSovereign AI(AI主権)エンタープライズAIの交差点だ。 グローバルLLM市場は2026年時点で約$11.5B(Coherent Market Insights)、CAGR約34.5%で2035年に$150Bへ拡大が見込まれる。 Sovereign AI支出は2026年に$100B超(Futurum)と、国家主導のAI基盤投資が急増している。 Sakana AIは「規模で戦わない日本発の小型効率モデル」という独自ポジションで、米中どちらにも属さない"第3の道"を打ち出している。

企業国/地域主力モデルポジション評価額目安
Sakana AI日本Namazu / EvoLLM / TinySwallow / CTM進化的マージ×日本Sovereign AI、小型効率$2.7B
OpenAI米国GPT-5.xフロンティアSaaS、汎用最強$500B級
Anthropic米国Claude安全性・エンタープライズ・コーディング$180B級
Mistral AI仏/EUMistral Large / Forge欧州Sovereign、OSS親和$6B級
DeepSeek中国V3 / R1超低コスト・OSS・算法効率非公開
Preferred Networks日本PLaMo 2.0 Prime、MN-CoreAI半導体+基盤モデルの垂直統合約$1.1〜1.5B
ELYZA日本(KDDI傘下)ELYZA-LLM-Diffusion日本語特化、KDDI顧客基盤KDDI傘下・非公開
Stockmark日本Stockmark-2-100BMITライセンス、業務Q&A特化非上場
ABEJA日本(東証)ABEJA Qwen / Mixture製造業DX、GENIAC採択上場済

日本国内の競合で最大のライバルはPreferred Networks(PFN)だ。 PFNは独自AI半導体MN-Coreと基盤モデルPLaMoを垂直統合するフルスタック戦略で、 PLaMo 2.0 Primeは日経優秀製品・サービス賞最優秀賞を受賞、政府AI「源内」に採用されるなど日本語ベンチ・政府調達で強力な実績を積んでいる。 対するSakana AIは半導体を持たずソフトウェア特化で、進化的マージによる開発速度と、 TransformerオリジナルメンバーとしてのグローバルAIブランドで差別化する。 「PFN=垂直統合の国士型」「Sakana AI=軽量研究ラボ×日本官民ハブ」という棲み分けが明確化しつつある。

日本政府のAI戦略における位置付けも重要だ。経産省が主導するGENIAC(Generative AI Accelerator Challenge)では 第1期以降連続採択され、計算資源支援を継続して受けている。第3期は24件採択(2025年7月、経産省発表)、 2026年以降も公募継続。Sakana AIはGENIAC政策の「日本発AIの顔」として扱われる場面が多く、 David Haは記者会見・Milken Asia Summit・Bloomberg・CNBC等で日本発Sovereign AIの論客として頻繁に登壇している。

Sovereign AI戦略と日本特化

Sakana AIの事業戦略の骨格は「Sovereign AI」に集約される。 NVIDIAのJensen Huangが提唱する「各国が自国データ・文化・言語でLLMを保有すべき」という思想に最適合し、 日本政府・メガバンクの"国産AI"志向を体現する。海外モデルに日本語法令・帳票データを出せない規制制約を追い風に、オンプレ・セキュアデプロイ可能な軽量専用モデルで金融・防衛・政府を攻める構造だ。 以下の4つの戦略案件がこの路線を具体化している。

案件時期内容戦略的意義
MUFG 包括パートナーシップ2025年5月〜融資稟議書・信用承認書の自動生成、多年契約。伊藤COOがMUFG AIアドバイザー兼務。Series B主導リード金融最大手での本格収益化。他メガバンクへの横展開の足がかり
防衛装備庁ATLA 委託研究2026年3月〜陸海空・ドローン統合の観測・情報融合・C2(指揮統制)システム高度化。2025年日米防衛イノベーションチャレンジで2分野受賞が布石防衛AI市場の本格参入。日米安保AIラインの日本側拠点化
In-Q-Tel 資本参加2025年11月CIA系VCがSeries Bに出資。国家安全保障関連技術への戦略投資日米インテリジェンスAIの結節点化。輸出管理・政府調達への適合シグナル
総務省SNS偽情報対策2026年3月完成SNS偽情報・誤情報の可視化システムを政府プロジェクトで実装認知戦・情報戦領域での実績。民主主義インフラ向けAI市場の開拓
大和証券 資産運用AI2025年10月〜資産運用コンサルAI。証券・アセットマネジメント領域金融の縦深拡大。MUFG(銀行)→証券→保険の金融フルライン戦略

David Ha CEOは2025年9月のJapan Timesインタビューで 「日本は規模で競うのではなく、日本文化・言語・規制に最適化された独自のAIを持つべき」 「Sakana AIはその"日本独自AI"を国際標準で構築する」と明言している。 2026年の事業拡張は金融(MUFG等)を起点に、製造・政府・防衛・インテリジェンスへ横展開する三正面作戦だ。 出資者と顧客が大きく重なる官民連合型の構造は、日本市場での確固たる堀となる一方、日本GDPと政府IT予算が収益の天井になるリスクも抱える。 David Ha自身もCNBC(2025/11)で「valuationは短期的に調整しうる」と警戒的な発言をしている。

今後の展望と課題

Sakana AIの2026年の焦点は(a) 金融パイロットのスケール収益化、(b) ATLA防衛案件の実証、(c) AI Scientist商用版のARR立ち上げの三正面。 Series B発表文では「Ecosystem Building(エコシステム構築)— 戦略投資・パートナーシップ・M&Aによるグローバル成長」を明言しており、 日本のAIスタートアップとして初めて買い手としてのM&Aに公式に言及した点も注目される。 海外の小規模研究チームや日本特化SaaSの買収で、研究厚みと実装アセットの両方を補強する構図が読める。

それでも、Sakana AIが日本AIスタートアップ史上でも類を見ない位置にいることは明らかだ。Transformer論文共著者+元Google Brain研究リード+元外交官という世界でも再現困難な創業チーム、進化的モデルマージとNature掲載という学術的信頼、MUFG・ATLA・In-Q-Tel・NVIDIAを束ねた官民連合、 そして「自然に学ぶ」という米中とは異なる思想的ナラティブ—— これらすべてが噛み合い、2.7Bドル企業価値を2年半で実現した。 今後3〜5年でSovereign AI市場の主役となれるか、それとも規模の壁に阻まれるか、日本AI史の試金石となる企業である。

参考文献

理解度チェッククイズ

理解度チェック

問題 0 / 50%
Q1

Sakana AIの共同創業者のうち、2017年のTransformer論文「Attention Is All You Need」の共著者であり「Transformer」という名前の命名者でもあるのは誰か?

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